◆エピローグ◆
『夏休みが終わって』
「……」
「……」
「なによっ!」
9月1日。
二学期最初の日である。
教室に入った俺はいつもの席に美鈴の姿を見つけて目をぱちくりさせた。
「美鈴ぅ…おまえ、なんでここにいるんだよ」
「う、うるさいわね。深川に連れ戻されたのよ!」
顔を真っ赤にしながら怒鳴る美鈴。
「あいつ、お婆様を説得するんだから。私が逆らえないのを知ってて…」
なるほど。本人を説得したのではなく、美鈴に対して絶対の発言力がある祖母に話をつけた訳か。さすが優紀さん。
「なんか、あんな大げさな別れ方して損した気分だなぁ」
少し意地悪く俺が言うと美鈴は顔をさらに真っ赤にして俯いた。
「じゃぁ、ただいまのキスは? あの時みたいにチュってやらないのか?」
俺は頬をつきだして美鈴に言う。
「ば、馬鹿ぁぁ!」
パシッ!
キスの変わりに俺は平手打ちを食らっていた。
「あんたって本当に最低ね!」
「あたた…叩くことないじゃないか。冗談言っただけだろ」
「あんたのは悪質なのよ!」
「まぁ、これでこそ美鈴だな。腐れ縁、継続って訳だ。これからもよろしく」
頬をさすりながら言う俺を、美鈴はきょとんとした顔で見る。
「な、なに言ってるのよ。あたしは別にあんたによろしくされようなんて思わないんだから!」
「はいはい。ところで、優紀さんは?」
美鈴は少しむっとした顔になる。優紀さんとは三本松で最後に会って以来、会っていない。連絡先が分からなかったのだ。
「あいつはお父様の会社に引き抜かれたわよ。これでうるさいのがいなくなってせいせいしたわ」
「優紀さんには何処に行ったら会えるかな?」
「知らないわよ。そんなこと」
「住所くらい知ってるだろ」
「知らないったら知らないの!自分で勝手に探せば」
何怒ってるんだよこの女。仕方ない姉貴からでも聞き出そう。
俺はため息まじりで自分の席に着いた。
優紀さん…。絶対、見つけだしてあの日に言えなかった言葉を伝えるんだ。
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