Marine Blue Serenade
■7日目■
【 朝 / 昼 / 夕 / 夜 】
◆7月27日<朝>◆
『姉貴の見送り』
「あの後、優紀には会えたのか?」
俺の隣を歩く姉貴が、不意にそんな事を聞いてきた。
今日はとうとう家に帰る日だ。俺が玄関を出ようとすると、姉貴がバス停まで送ると言ってついてきたのだ。
「まぁ、一応は…」
俺は曖昧に答える。あの状況を詳しく教えるのはなんとなく気が引けた。浮気未遂事件だものなぁ、あれは。
「…そうか。その後が続かなかったんだな」
「うるさいやい。冷静に話せるような感じゃなかったから仕方ないじゃないか」
姉貴は俺の顔を見る。思わず身を引く。
「な、なんだよ、姉貴」
たじろぐ俺。
「すまなかったな。まこと」
「え?」
「私のせいでおまえにも辛い思いをさせたな」
意外な言葉に俺は自分の耳を疑った。
姉貴の事だから、自分の事は棚に上げて俺をからかうと思ってた。
「まことをパーティーに行かせたのは、康太郎と優紀が浮気をしないように考えてのことだった。でも、お前の方が優紀と仲良くなって帰って来るなんて思いもよらなかったよ」
「いいじゃないか。姉貴にとっては結果オーライだろ?」
「でもな…」
「いいんだよ。姉貴が優紀さんと知り合いじゃなきゃ、俺なんてきっと相手にしてもらえなかったぜ」
「ああ、そうだな」
あう。あっさり肯定すんなよ…。
「それに、まだ終わった訳ではないし…。帰ったら、もう一度優紀さんに会いにいくつもりだから」
俺の言葉に、姉貴は少し安心したように笑った。
そうこうしているうちに、俺達はバス停に着いた。時刻表に合わせて家を出たのですぐに来るはずだ。
「そうか…まあ、よかったよ。思った程、落ち込んでないようだし」
「なんだよ。心配してくれてたのかよ」
「当然。この件はお前の問題である以前に、わたしの問題でもあるからな」
「俺自身を心配してって訳じゃないのか?」
「お前自身の事も心配だったぞ。いい歳して、え〜ん、優紀さ〜んなんて、みっともなく泣いてるんじゃないかって」
「おい…」
けっきょく、これかよ〜。
ジト目で睨む俺を見て姉貴が笑った。
「お、来たみたいだな」
国道を陽炎のの揺れる中、こちらに向かってくるバス。
俺は荷物を握り直し一歩前へ出る。
「それじゃぁ、姉貴、世話になったな」
「ああ。おふくろ達によろしく。盆には帰ると伝えておいてくれ」
ウインカーを上げてバスが停まる。ドアが開き俺は乗り込んだ。
眩しい朝の光が窓から降り注ぐ。俺は目を細めて夏の色の海を見た。
今日も暑くなるんだろうな…。
優紀さん。
短い間だったけど、二人で過ごした夏の思い出は決して忘れないだろう。しかし、俺にはまだやり残した事がある。まだ、終わった訳ではないのだ。
俺はこれからの事を考えつつ、一週間過ごした海に別れを告げた。
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