◆エピローグ◆
『夏休みが終わって』
「なによっ!」
そう言って俺を睨む美鈴。
夏休み明けの9月1日。
俺はいつもと同じように席に座ってる美鈴を見て目をぱちくりさせた。
「お前、なにやってんだ? こんな所で」
「うるさいわね! 深川の奴に連れ戻されたのよ!」
フランスに発ったはずの美鈴が教室にいる。俺は拍子抜けしてしまった。
「なんなのよ! 言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」
俺はしばらく何を言おうか考える。
「まぁ、いいか。まだ腐れ縁健在って事で…。これからもよろしくな」
俺は美鈴の肩を叩いて、自分の席へ歩きだす。
くくく…美鈴の奴、意外な事を言われて驚いてたな。
「ま、待ちなさいよ馬鹿男」
「なんだよ」
呼び止められて振り向く。
「あんたが深川をしっかり捕まえておかないのが悪いんだからね! あいつさえ来なければ日本に戻ってなんか来なかったのに」
美鈴の話によると、優紀さんは俺と別れたあの日、わざわざフランスまで美鈴を追いかけて行ったらしい。
そして美鈴の祖母に話をつけて彼女を連れ戻したそうだ。本人を説得せず、美鈴が言いなりになっている祖母を説得するあたり、さすがだなと思った。
「じゃぁ、優紀さんは今日もお前を送って来たのか?」
顔が見れなかった事に不安になって聞く俺。
「残念でした。今回の事で実力が認められて綾部商事…お父様の会社に引き抜かれたわ」
「そうか」
「なぁんだ。やっぱ、あんた深川に振られたんだ」
少し嫌味っぽく笑って俺を見る美鈴。
「違うぜ。落ち着いたらまた会おうって事になってる」
「本当に〜? ま、あたしには関係ないけどね」
「……」
でも、あの日から会ってないのは事実で、連絡もない。
美鈴の一言は俺の不安を見事に突いていた。
俺は少し不愉快になりながら、自分の席につく。
優紀さんに再び会えるのだろうか?
俺は窓の外を眺めながら深いため息をついた。
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