ここで別れたらもう二度と会えないかもしれない。
ここで別れたらもう二度と気持ちを伝えられないかもしれない。
ここで別れたらもう二度と俺を見てくれないかもしれない。
俺はなんて情けないんだ!こんなに無力なんだ!
心の中で俺は自分自身を罵倒する。
どうすればいい…。
諦めるのか?…諦めたくない!!
俺はいつの間にか走り出していた。優紀さんの車が走り去った方へ向かって。
馬鹿げた事だと思った。人間の足で車を追いかけて追いつくなんて出来るはずがない。俺の中のもう一人が俺に告げる。
しかし俺は足を止めなかった。
息が切れる。足が痛む。心の中でなにかが「諦めろ!」と俺を責め立てる。
でも、俺は走った。それが今できる俺の精一杯なのだから。
あ!優紀さんの車だ!信号待ちで停車しているぞ。
青にならないでくれと祈りながら全力疾走する。
無情にも交差する方の信号は黄色に…。
…あと少し…。
そして赤に。
…間に合ってくれ…。
優紀さんの待つ方の信号が青へ…!
「優紀さん!!!」
俺はなんとか動き出した優紀さんの車のリアに手が届いた。それを叩きながら彼女の名前を叫んだが、彼女は止まってくれなかった。
サイドミラー越しでは彼女の表情は読みとれなかったが、たぶんこちらには気づいていただろう。
「うわっっ」
俺は勢いあまって転んでしまった。優紀さんの車の音が遠ざかる。
膝をすりむいてしまったらしい。痛みが走る。
俺は急に惨めな気分に襲われた。
顔を上げて立ち上がろうとする。
汗がポタポタ地面に落ちる。
俺は街灯の光で映し出された自分の影を見つめた。
…こんな事をしてなにになる。男らしく諦めろ…。
影は俺にそう告げているようだった。