■優紀編■
5日目【7月25日】


 
 

 ここで別れたらもう二度と会えないかもしれない。

 ここで別れたらもう二度と気持ちを伝えられないかもしれない。

 ここで別れたらもう二度と俺を見てくれないかもしれない。

 俺はなんて情けないんだ!こんなに無力なんだ!
 心の中で俺は自分自身を罵倒する。

 どうすればいい…。

 諦めるのか?…諦めたくない!!

 俺はいつの間にか走り出していた。優紀さんの車が走り去った方へ向かって。
 馬鹿げた事だと思った。人間の足で車を追いかけて追いつくなんて出来るはずがない。俺の中のもう一人が俺に告げる。

 しかし俺は足を止めなかった。
 息が切れる。足が痛む。心の中でなにかが「諦めろ!」と俺を責め立てる。
 でも、俺は走った。それが今できる俺の精一杯なのだから。

 あ!優紀さんの車だ!信号待ちで停車しているぞ。
 青にならないでくれと祈りながら全力疾走する。

 無情にも交差する方の信号は黄色に…。

 …あと少し…。

 そして赤に。

 …間に合ってくれ…。

 優紀さんの待つ方の信号が青へ…!

「優紀さん!!!」

 俺はなんとか動き出した優紀さんの車のリアに手が届いた。それを叩きながら彼女の名前を叫んだが、彼女は止まってくれなかった。

 サイドミラー越しでは彼女の表情は読みとれなかったが、たぶんこちらには気づいていただろう。

「うわっっ」

 俺は勢いあまって転んでしまった。優紀さんの車の音が遠ざかる。
 膝をすりむいてしまったらしい。痛みが走る。

 俺は急に惨めな気分に襲われた。

 顔を上げて立ち上がろうとする。
 汗がポタポタ地面に落ちる。
 俺は街灯の光で映し出された自分の影を見つめた。

 …こんな事をしてなにになる。男らしく諦めろ…。

 影は俺にそう告げているようだった。



《どうする?》

諦める
諦めない