「う〜ん」
俺はしばらく腕を組んで考えてみた。
「そ、そんなに考え込まなきゃいけない事なの?」
優紀さんが少し呆れながら俺に言う。その間も俺はいろいろな娘を思い浮かべてみる。
強いて思い浮かぶのは…。
小野寺さん…確かに憧れみたいなものはもってるけどはっきりしないしなぁ
美鈴…気になる奴ではあるけど恋愛対象ではないしなぁ。
第一あんなの彼女にしたらうるさいぞ〜きっと。会う度に喧嘩しそうだよな。
「…いないですよ」
「まこと君、だめだよ。君の年頃で女の子に関心がないなんて、普通じゃないわ」
「関心ないなんてひどい言われようですね。ただ単に魅力的な女性が周りにいないんですよ。今は目の前に一人いますけどね」
優紀さんはキョトンとなって俺を見る。そして少し微笑んだ。
「ありがと。お世辞でもうれしいわ」
あんまり感情無く言う優紀さん。
「いや、お世辞なんかじゃ…」
「はいはい。あんまり大人をからかうもんじゃないの。それでさ、例えば美鈴お嬢様なんかは?」
上手く聞き流されてしまった。
「よして下さいよ。誰があんな奴」
「あら、でもお嬢様は美人よ。まぁ性格に問題ありだけど、そういう部分の事もあなたなら理解してあげられるでしょ?」
「確かに気になる奴だったけど、そういった感情はないです。それにあんなひねくれた女、俺は嫌ですよ」
「でもね、昔は素直でいい子だったのよ」
「あれ? 美鈴の事、昔から知っていたのですか?」
「言ったでしょ? 家の親と美鈴お嬢様の親とは友人だって。わたしが中学くらいの時は美鈴お嬢様とよく遊んだりしてたわ。昔は「お姉ちゃん、お姉ちゃん」って、わたしについてまわって可愛かったものよ」
「だから美鈴の世話係りに選ばれた訳ですね」
「そうなの。でも、久しぶりに会って驚いたわ。昔なじみだから気が楽だと思ったんだけど大間違いだった。やっぱり環境がよくなかったのよ。お嬢様の面倒を見るのって嫌だった反面、少し可愛そうでもあったわ。だから辞めずに頑張って来たの」
「そうだったのですか」
「もしも…美鈴お嬢様が君とつき合いたいって言ったら、君はどうする?」
「断りますよ。だって俺のは優紀さんがいるもん」
俺はそう言って優紀さんが逸らした話を元に戻した。
「…あのね〜。ほ〜ん気で言ってるの? まこと君」
「もちろんですよ」
ちょっと怒った顔をして俺を見る優紀さん。
「じゃあ、確かめるわよ。いい?」
「え?」
「はい、顔をこっちに突き出して」
「こうですか?」
俺はテーブルに乗り出す形で優紀さんの方へ顔をつきだした。
「じゃぁ、目をつぶって」
「は、はい」
あう、何をする気なんだ?優紀さん。変に期待してしまうぞ…。
確かめるって事は、もしかしてキス…?まさかね…。
この間みたいに鼻つままれるかも?
もしかして、平手打ちが飛んできたりして。
俺はドキドキしながら優紀さんの行動を待った。
……。
……。
ちゃりりりん。
俺はベルの音にはっとなって目を開けてみる。
「あれ? 優紀さん?」
前の席には優紀さんの姿はない。入り口のドアを見ると、優紀さんが店から出て行こうとしていた。
慌てて立ち上がると、彼女は背中越しにこちらを見る。
「早くしないと置いてっちゃうわよ」
ウインクをしながら俺に言った。
また、やられた…。
俺は一人で顔をつきだした姿勢を取っていたんだ。
格好悪ぅ〜。
こんな単純な手に2度も引っかかるなんて、もしかして俺って馬鹿?
俺は顔を真っ赤にしながら慌てて優紀さんの後を追った。