■優紀編■
5日目【7月25日】


 
 
「う〜ん」

 俺はしばらく腕を組んで考えてみた。

「そ、そんなに考え込まなきゃいけない事なの?」

 優紀さんが少し呆れながら俺に言う。その間も俺はいろいろな娘を思い浮かべてみる。
 強いて思い浮かぶのは…。

 小野寺さん…確かに憧れみたいなものはもってるけどはっきりしないしなぁ
 美鈴…気になる奴ではあるけど恋愛対象ではないしなぁ。
 第一あんなの彼女にしたらうるさいぞ〜きっと。会う度に喧嘩しそうだよな。

「…いないですよ」
「まこと君、だめだよ。君の年頃で女の子に関心がないなんて、普通じゃないわ」
「関心ないなんてひどい言われようですね。ただ単に魅力的な女性が周りにいないんですよ。今は目の前に一人いますけどね」

 優紀さんはキョトンとなって俺を見る。そして少し微笑んだ。

「ありがと。お世辞でもうれしいわ」

 あんまり感情無く言う優紀さん。

「いや、お世辞なんかじゃ…」
「はいはい。あんまり大人をからかうもんじゃないの。それでさ、例えば美鈴お嬢様なんかは?」

 上手く聞き流されてしまった。

「よして下さいよ。誰があんな奴」
「あら、でもお嬢様は美人よ。まぁ性格に問題ありだけど、そういう部分の事もあなたなら理解してあげられるでしょ?」
「確かに気になる奴だったけど、そういった感情はないです。それにあんなひねくれた女、俺は嫌ですよ」

「でもね、昔は素直でいい子だったのよ」
「あれ? 美鈴の事、昔から知っていたのですか?」


「言ったでしょ? 家の親と美鈴お嬢様の親とは友人だって。わたしが中学くらいの時は美鈴お嬢様とよく遊んだりしてたわ。昔は「お姉ちゃん、お姉ちゃん」って、わたしについてまわって可愛かったものよ」
「だから美鈴の世話係りに選ばれた訳ですね」

「そうなの。でも、久しぶりに会って驚いたわ。昔なじみだから気が楽だと思ったんだけど大間違いだった。やっぱり環境がよくなかったのよ。お嬢様の面倒を見るのって嫌だった反面、少し可愛そうでもあったわ。だから辞めずに頑張って来たの」
「そうだったのですか」

「もしも…美鈴お嬢様が君とつき合いたいって言ったら、君はどうする?」
「断りますよ。だって俺のは優紀さんがいるもん」

 俺はそう言って優紀さんが逸らした話を元に戻した。

「…あのね〜。ほ〜ん気で言ってるの? まこと君」
「もちろんですよ」

 ちょっと怒った顔をして俺を見る優紀さん。

「じゃあ、確かめるわよ。いい?」
「え?」
「はい、顔をこっちに突き出して」
「こうですか?」

 俺はテーブルに乗り出す形で優紀さんの方へ顔をつきだした。

「じゃぁ、目をつぶって」
「は、はい」

 あう、何をする気なんだ?優紀さん。変に期待してしまうぞ…。
 確かめるって事は、もしかしてキス…?まさかね…。
 この間みたいに鼻つままれるかも?
 もしかして、平手打ちが飛んできたりして。

 俺はドキドキしながら優紀さんの行動を待った。

 ……。
 ……。

 ちゃりりりん。

 俺はベルの音にはっとなって目を開けてみる。

「あれ? 優紀さん?」

 前の席には優紀さんの姿はない。入り口のドアを見ると、優紀さんが店から出て行こうとしていた。
 慌てて立ち上がると、彼女は背中越しにこちらを見る。

「早くしないと置いてっちゃうわよ」

 ウインクをしながら俺に言った。

 また、やられた…。
 俺は一人で顔をつきだした姿勢を取っていたんだ。
 格好悪ぅ〜。
 こんな単純な手に2度も引っかかるなんて、もしかして俺って馬鹿?

 俺は顔を真っ赤にしながら慌てて優紀さんの後を追った。