◆7月25日<夜>◆
『二人だけの夜』
一時間ほど走っただろうか? もう辺りは真っ暗になってしまった。
地理的に言ったら、この辺りは俺達が住んでる町の近くのはずだ。あと三十分も走れば家まで帰れるだろう。
俺が連れって来られたのは海沿いの小さな喫茶店。白い洒落た建物だ。
もう閉店間際だからだろうか?客は一人もいない。
ドアを開けると小さなベルの音が鳴る。
「せっかく来てもらって悪いが、今日はもうオーダーストップなんでね」
四十歳位の髭面のマスターが、こちらも見ず、ぶっきらぼうにそう言った。
「かわいい姪っ子が食べに来たのに、それはないんじゃない」
マスターがこっちを向く。そして優紀さんを見るなり驚いた顔をした。
「優紀ちゃんじゃないか。めずらしいな。この店を訪れるなんて何年ぶりだ」
「お久しぶりです。叔父様。今から貸し切りでお願いできるかしら」
「ああ、いいとも。注文はいつものだろ?」
「ええ。お願いしますね」
優紀さんはそんなやりとりの後、俺を海側の窓際のテーブルに連れていった。
「叔父様って?」
「そうよ。私の母の弟。だから、こんなわがままも多少は聞いてもらえるの」
「へぇ。でもなかなかいい店ですね。雰囲気があって」
「そうでしょ?こういう店を持つのが昔からの叔父の夢だったんですって」
「ふ〜ん」
しばらくすると料理が運ばれて来た。小さな喫茶店にしては海産物を使ったなかなか本格的な料理だった。
鮮やかなブルーのトロピカルソーダを片手に優紀さんは微笑む。
「ワインじゃないと雰囲気でないけど…今日は車だから許してね」
「え、えっと…」
「あ、そうか。君はまだ未成年だったわね」
俺も優紀さんを習ってグラスを片手で持ち上げる。
「二人の出会いを祝して、乾杯」
少しおどけて優紀さんが言うと二人はグラスを軽く合わせた。