◆7月25日<夕方>◆
『夕焼けの海岸線』
あっと言う間に夕方になってしまった。
パラソルなどの荷物を片づけた後、ビジターセンターでシャワーを浴びて着替える。
外に出ると辺りの景色は夕焼けに真っ赤に色づいていた。蝉とヒグラシの声が夏の夕暮れを演出している。
海岸ではバーベキューを楽しむ人達や、夕日を見ながら語らっている恋人達。犬を連れて散歩する人など、昼間とは違う雰囲気があった。
海水浴客の中は未だに泳いでいる人たちもいたが、大半が帰り支度をしている。
夕食をご馳走してくれるという優紀さんの言葉に甘えて、俺はこのまま優紀さんとドライブがてら食事に行く予定だ。
姉貴には電話で連絡は入れたが、優紀さんの事については何も聞かれなかった。ただ一言「わかった。早く帰ってこいよ」と言っただけだった。
「お待たせ。まこと君。さあ、行きましょう」
優紀さんがやって来て車に乗り込む。さすがに車の中は暑かったが、優紀さんが冷房を全開にしてくれたので、すぐに涼しくなった。
車が動き出す。海沿いの国道に出た車は西へ向かって流れに乗った。サーフボートやウインドサーフィンの道具をルーフキャリアに積んだ車が多い。
中にはジェットスキーを乗せた台車を牽引してる車もある。
さすがに人気のマリンスポットだけはあるなぁ。
「うわぁ。まこと君、けっこう焼けたわね」
「え?…そ、そうですか?」
優紀さんに言われて俺は腕を見てみる。
あれま、本当だよ。暗い所で見るとけっこう真っ黒。どうりで、少しひりひりする訳だ。
「痛くない?」
「まぁ、少し…」
優紀さんを見ると、さすがに気を使っていただけあって、ほとんど日焼けしていない。
「優紀さんの日焼けした姿も見たかったな」
「わたし?駄目、駄目。私は日焼けしない事に決めてるんだから」
「どうして?」
「高校の時にね、博子達の海に行って真っ黒に焼いたことあるのよ。その時に顔と腕にしみが残っちゃって…。それが凄く嫌だったの。それから、二度と肌は焼かないって決めたわけ」
まぁ、確かに日焼けは肌に良くないと言うし…。
でも黒くなってないと海に行った気分でないんだよなぁ。
黄昏の景色の中、車は海岸線を抜けて山道に入る。丘の向こうに赤く光る空と海。太陽はもう水平線の下だ。
もう夜がすぐそこまで迫っていた。
「まこと君、大丈夫? 疲れていない?」
ぼぅ〜と窓の外を見ていた俺を、心配して優紀さんが声をかける。
夕闇を見つめていて、いつの間にか無口になっていたみたいだ。それを疲れていると勘違いされたので俺は慌てて否定する。
「いや、大丈夫ですよ。ただ、暮れていく空が綺麗なんで。思わず見とれてたんです」
「…なんか、らしくない」
からかうように言う優紀さん。
「やっぱ変ですか?」
「…冗談よ。そうね、夏の夕暮れって、確かに切ない思いに駆られるもの」
優紀さんは少し寂しそうな顔をしていた。特に今日は昼間、楽しかった分、夕暮れが寂しくて切なくて、そして綺麗だった。