◆7月24日<夕方>◆
『静かに流れる夕景を見ながら』
俺は姉貴の家に戻って夕食を食べる。康太郎さんはまだ帰って来ていない。今日は遅くなるそうだ。
姉貴と二人きりで食事をする。食べながらも俺は優紀さんの事をずっと考えていた。
「おい、なにぼけ〜としながら食事をしてんだ」
姉貴が怪訝そうに俺を見る。なんだか無性に腹立たしくなった。
元はといえば姉貴が原因なんだ。何も知らないで暢気な顔しやがって…。
「ごちそうさま」
文句を言う気力もない。俺は小声でそう言うと食卓から離れた。
「おい、まだ残ってるぞ。体の具合でも悪いのか?」
姉貴が俺の背中に向かって声をかけるが無視して俺は家を出た。今、姉貴と向かい合うと絶対喧嘩になってしまう。俺はなんとなく海が見たくなって家から近い三本松海水浴場へ足を運んだ。
空は雲の間に微かな赤を残して夜を迎えようとしている。海沿いの国道を歩きながら深い赤に染まる海を見ていた。
なんでこんなに腹立たしいのだろう。優紀さんとはただの知り合いだったはずだ。
少し好意的な言葉をかけられ、少しの間一緒にいただけじゃないか。
どうしてこんなに気になるのだろう。
それに、信じるも信じないも関係ないんじゃないか?別に恋人同士でもないのに…。
俺は本気で優紀さんの事が好きになってしまったのだろうか?
プッ!プッ!
急に車のクラクションがなったので振り向くと、黒のシビックが横に停まる。優紀さんだ。ゆっくり助席側のウインドゥが開き少し遠慮がちに優紀さんが顔を出す。
「まこと君。少しつき合ってくれない」
優紀さんは静かにそう言って俺の顔を見る。一瞬迷ったものの、優紀さんの深刻な表情を見ると断われなかった。俺はためらいながらも車に乗り込んだ。
ゆっくりと車が走り出す。優紀さんは何も言わない。俺はどうしていいか分からず窓の外を見る事にした。
流れていく景色。海沿いの国道を東へ走る。カーステレオから静かなジャズが流れそれが黄昏の海の景色を一層引き立てていた。
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