不意にステレオのスイッチを切り、優紀さんが口を開いた。
「まこと君。本当にごめんなさい。私、君を傷つけちゃったね。でも、君の事、高く評価してるって言ったのは本当よ。君のお嬢様に対する態度。一見、仲が悪く見えるけど、君ってお嬢様にさりげなく気を使っているでしょ。きつい事を言うのも喧嘩するのも彼女の為思っての事よね。あなたは優しいわ。本当の優しさを知っている。そんな所に惹かれたの」
「……」
「昨日ね。私の事が気になるって言ってくれた時、私、嬉しかった」
優紀さんはいつになく真面目な表情で俺に言った。
「でも、俺のような子供じゃ相手にならないんでしょ?」
「まこと君が歳の事なんて気にしないって思ってくれるなら、わたしも気にしないわ」
「じゃぁ、俺、本気になっちゃいますよ。優紀さんの事」
「私も君の言ったこと本気にしちゃうよ」
前を見ながら話している優紀さんの横顔からは、からかっているような様子はみられない。俺は気持ちを落ち着かせるため深呼吸した。
「…分かりました。もう優紀さんの事、疑いません」
「本当? よかった」
横目でこちらを見て安心したように微笑む優紀さん。
「それじゃ、早速だけど明日は暇?」
その場の雰囲気を吹き飛ばすように彼女は明るい声で俺に言う。
「え? …特には用事ありません」
「私、明日は休みなの。よかったら一緒に天乃白浜に泳ぎにいかない?せっかく海に来てるのに、なんにもしないのってもったいないじゃない。行く相手もいないし、お嬢様達と行ったら私は遊べないしね。つき合ってくれるかな?」
「そういえば俺もまともに泳ぎに行ってないなぁ。行きましょう。俺なんかが相手でよければ」
「もちろんじゃない。まぁ、もっちょっと若い娘の方が君はいいかもしれないけど、おばさんで我慢してね」
「なに言ってるのですか。優紀さんと海になんて光栄ですよ。優紀さんの水着姿、楽しみだなぁ」
「まあ。でもあんまり期待しないでね。水着姿なんて自信ないんだから」
優紀さんの表情に笑顔が戻る。正直言うと俺はまだ心にひかかるものがあるんだけど、彼女の笑顔を見ると難しい事は考えまいという気持ちになった。俺の隣で優紀さんが微笑んでくれている。その事実だけで十分じゃないか。そう思えたのだった。