よし、ここは冷静にあの両親と交渉してみよう。
「お取り込み中、すみません」
「…まこと君」
突然の声に沢田さんと直美さんは俺の名前を呼んだ。子供の両親は怪訝そうな顔をして振り向く。
「だれだお前?」
「あんた、ほら、警察が話してた宇佐美さんよ」
「ああ…いろいろと助けてくれた」
「話は聞かせてもらいました。もう彼女たちも反省してるようですし許してあげてください」
「何を言う! 責任をとってもらねば納得がいかない!」
責任って…ちょっと言い過ぎじゃないのかオッサン! という言葉を飲み込む。
とにかく、頭を冷やしてもらわねば話にならない。
売り言葉に買い言葉でこちらも声を荒げれば、興奮はエスカレートするだけで何の解決にもならない。
怒鳴り合いをしても事態は収拾できない。
「ここにいる飯野さんや沢田さんをはじめとするセンターのスタッフはあなたのお子さんの命を助けようと必死で処置をしたのですよ」
「それとこれとは関係ない。なんで事故が起きたのかの話をしてるのだ」
「じゃぁ、事故が起きたときあなた方はどちらへ?」
冷静に、相手の不都合を指摘する。決して感情的になってはいけない。相手を責めるのではなく相手に気づかせる為に指摘するのだ。
「それは…」
「それは責任転換じゃないか!」
母親のほうはどもったが、父親はまだまだである。
「あ、お気に触ったのならあやまります。俺が言いたいのはみんなに少しづつ過失があって事故が起きたと言うことです。もちろん事故を起こした当人には過大な過失がありますが、それ以外の人の過失はたいしてかわるもんじゃぁありません」
「……」
「それより、事故後の対処について評価してあげて下さい。彼らが今回の加害者のように責任を放棄してたら、お子さんの命は失われてたかもしれません」
「…そうね。確かに…」
母親の方は折れた。その様子を見て父親の方も冷静さを取り戻す。
「…仕方ない。お前に免じて、これくらいで許してやる」
「ありがとうございます」
ほっ。
何とかお引き取り願えた。
「…まこと君、ありがと…」
「宇佐美君、助かったよ。損害賠償とか請求されたらどうしようかとヒヤヒヤもんだったよ」
急な展開に、黙って俺の交渉を見ていた二人が、安堵した表情で俺にお礼を言ってくれた。
「…まこと君の事、見直しちゃったわ」
「惚れなおした?」
「…ははは…私、着替えてくるから」
直美さん元気がない。
それは、そうだろう。確かに直美さんが目を離した隙に事故はおきたんだからな。
それにあんなに言われたら誰だって落ち込むぜ。
それにしても、前に姉貴に交渉術ならっておいてよかったよぅ
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