■直美編■
5日目【7月25日】


 
 
 「直美さん! 子供をお願い。俺はひき逃げ犯を追いかけるから」
 「え? でも大丈夫なの?」
 「適材適所! 直美さんのほうが応急処置とかしってるだろ? 奴は俺が捕まえてくるから」
 「わかったわ!」

 でも走って追いかけたってなぁ……おや? 自転車を持った子供の集団が野次馬の中にいるぞ。

 「悪いが自転車を借りるぞ」

 俺はマウンテンバイクを持ってた子供に言った。

 「えーやだよ!」
 「事故を起こした奴を追いかけたいんだ。頼むよ」
 「レンタル料」
 「は?」
 「出すもん、出せって言ってンだ。解らない兄ちゃんだな」

 手の平を突き出す子供。

 こぉの、クソガキーー!! …ってそんなことしている場合じゃないや。

 「仕方がない、これでジュースでも飲め」

 そう言ってポケットに入っていた100円玉を渡す俺。

 「なんだよ、シケてやがんな。それに、ジュース買うのには20円足らないぞ」
 「だあああ、やかましい!! とっとと貸しやがれ!」

 半ば強引に自転車を奪うと逃げていくジェットシキーを追って、ビーチを疾走した。
 でも、こりゃぁ沖に逃げられたら最後だな……。
 俺は砂に車輪を取られながらも必死で追ったが、ジェットスキーはどんどん小さくなっていった。


 くそ……とてもじゃないが追いつけない。
 もうこの先は岩場だ。ちくしょうここまでか!?

 あっ! あれはひき逃げ犯のジェットスキー! いた!! いたぞ! ジェットスキーを捨てて逃げてやがる。
 これなら追いつける!!

 「こぉぉら!! 待ちやがれ!!」
 「ひぃ!!」

 よっしゃぁ! この先は高い崖で行き止まりだぜ!

 「もう逃げられないぜ」
 「お、俺は悪くねぇ!あのガキが悪いんだぁぁ」
 「…こんな無責任な奴に免許とらせんなよな。まったく…」
 「ち、近づくなあああぁぁぁぁ!」

 げ! こいつ、ダイバーナイフもってやがる!!
 しまった捕まえようにも俺は武器もないし喧嘩も弱かったんだ。
 やばい、どうする? 俺!

 「早まるなっ! 大丈夫だ、自首すれば今なら間に合う」

 とにかく落ち着かせようと月並みな台詞を言ってみる。

 「うそだぁぁ!! 俺は終わりだ!! 人生はむちゃくちゃだ!!」
 「事故を起こした事はしょうがないだろ?責任を償うんだ」
 「俺は無免許だったんだ! 重罪にきまってる!!」

 あちゃぁ。
 こいつ免許も持たずに乗ってたのかよ。

 「大丈夫だ。いいからナイフを捨てなよ」
 「いやだぁぁ! くるなぁぁ」

 男がナイフをむちゃくちゃに振り回す。くっそう!! こりゃぁひやひやものだぜ。まいったな。

 「あんたにも家族はいるだろう? その人達の事も考えて見ろ」
 「とーちゃん! かーちゃん! うわわ!! 息子が殺人犯だと知ったら…つ、捕まるわけにはいかねぇ」

 おい。まだ子供は死んだとは決まってないぞ。
 勝手に自分を殺人犯にするな。
 くそぅ…このままあのナイフで襲われたらひとたまりもない。
 とりあえずここは一旦退くか?こいつ正気を失ってやがる。命あってのもの種だしな……

 「こぉら! お前ら! 何をしとっとかぁ〜!」

 助かった、警察官だ。

 「そこの男、そりゃぁナイフじゃなかとか? そこを動くんじゃなかとばい」
 「うわわぁぁ、俺は、もう終わりだぁぁ」

 慌てふためく男をその巡査のおっさんが警棒で押さえつけた。

 「おとなしくしんしゃい! 抵抗してもむだったい!!」
 「助かったぜお巡りさん」
 「あんたもなんばしよっとか? こげんとこで刃物振り回して喧嘩したら危なかろうが!!」
 「いや、そいつはさっき天乃白浜海水浴場で、子供を跳ねて逃げたジェットスキーヤーなんですよ。俺は捕まえようと…」
 「おうおう! 連絡ば受けて、ちょうど今ワシが行きよったとこやったとよ。やぁ〜お手柄お手柄! ばってんあんまり無理しちゃいかんとよ。ワシが来てなかったら危なかったばい」
 「あははは…確かに」

 ひき逃げ犯は巡査さんに引っ張られていった。
 ふう、それにしても汗びっしょり。
 今考えると、もしかして、かなりヤバイ状況だったのでは?
 必死だったので気付かなかったけど、下手したら俺、殺されてたかも…今頃になってめちゃめちゃ怖くなってきた。

 ビーチに戻るとすっかりいつもの感じに戻っていた。子供は直美さんやセンターのスタッフの素早く的確な処置により、大事にはいたらなかったそうだ。