「直美さん! 子供をお願い。俺はひき逃げ犯を追いかけるから」
「え? でも大丈夫なの?」
「適材適所! 直美さんのほうが応急処置とかしってるだろ? 奴は俺が捕まえてくるから」
「わかったわ!」
でも走って追いかけたってなぁ……おや? 自転車を持った子供の集団が野次馬の中にいるぞ。
「悪いが自転車を借りるぞ」
俺はマウンテンバイクを持ってた子供に言った。
「えーやだよ!」
「事故を起こした奴を追いかけたいんだ。頼むよ」
「レンタル料」
「は?」
「出すもん、出せって言ってンだ。解らない兄ちゃんだな」
手の平を突き出す子供。
こぉの、クソガキーー!! …ってそんなことしている場合じゃないや。
「仕方がない、これでジュースでも飲め」
そう言ってポケットに入っていた100円玉を渡す俺。
「なんだよ、シケてやがんな。それに、ジュース買うのには20円足らないぞ」
「だあああ、やかましい!! とっとと貸しやがれ!」
半ば強引に自転車を奪うと逃げていくジェットシキーを追って、ビーチを疾走した。
でも、こりゃぁ沖に逃げられたら最後だな……。
俺は砂に車輪を取られながらも必死で追ったが、ジェットスキーはどんどん小さくなっていった。
くそ……とてもじゃないが追いつけない。
もうこの先は岩場だ。ちくしょうここまでか!?
あっ! あれはひき逃げ犯のジェットスキー! いた!! いたぞ! ジェットスキーを捨てて逃げてやがる。
これなら追いつける!!
「こぉぉら!! 待ちやがれ!!」
「ひぃ!!」
よっしゃぁ! この先は高い崖で行き止まりだぜ!
「もう逃げられないぜ」
「お、俺は悪くねぇ!あのガキが悪いんだぁぁ」
「…こんな無責任な奴に免許とらせんなよな。まったく…」
「ち、近づくなあああぁぁぁぁ!」
げ! こいつ、ダイバーナイフもってやがる!!
しまった捕まえようにも俺は武器もないし喧嘩も弱かったんだ。
やばい、どうする? 俺!
「早まるなっ! 大丈夫だ、自首すれば今なら間に合う」
とにかく落ち着かせようと月並みな台詞を言ってみる。
「うそだぁぁ!! 俺は終わりだ!! 人生はむちゃくちゃだ!!」
「事故を起こした事はしょうがないだろ?責任を償うんだ」
「俺は無免許だったんだ! 重罪にきまってる!!」
あちゃぁ。
こいつ免許も持たずに乗ってたのかよ。
「大丈夫だ。いいからナイフを捨てなよ」
「いやだぁぁ! くるなぁぁ」
男がナイフをむちゃくちゃに振り回す。くっそう!! こりゃぁひやひやものだぜ。まいったな。
「あんたにも家族はいるだろう? その人達の事も考えて見ろ」
「とーちゃん! かーちゃん! うわわ!! 息子が殺人犯だと知ったら…つ、捕まるわけにはいかねぇ」
おい。まだ子供は死んだとは決まってないぞ。
勝手に自分を殺人犯にするな。
くそぅ…このままあのナイフで襲われたらひとたまりもない。
とりあえずここは一旦退くか?こいつ正気を失ってやがる。命あってのもの種だしな……
「こぉら! お前ら! 何をしとっとかぁ〜!」
助かった、警察官だ。
「そこの男、そりゃぁナイフじゃなかとか? そこを動くんじゃなかとばい」
「うわわぁぁ、俺は、もう終わりだぁぁ」
慌てふためく男をその巡査のおっさんが警棒で押さえつけた。
「おとなしくしんしゃい! 抵抗してもむだったい!!」
「助かったぜお巡りさん」
「あんたもなんばしよっとか? こげんとこで刃物振り回して喧嘩したら危なかろうが!!」
「いや、そいつはさっき天乃白浜海水浴場で、子供を跳ねて逃げたジェットスキーヤーなんですよ。俺は捕まえようと…」
「おうおう! 連絡ば受けて、ちょうど今ワシが行きよったとこやったとよ。やぁ〜お手柄お手柄! ばってんあんまり無理しちゃいかんとよ。ワシが来てなかったら危なかったばい」
「あははは…確かに」
ひき逃げ犯は巡査さんに引っ張られていった。
ふう、それにしても汗びっしょり。
今考えると、もしかして、かなりヤバイ状況だったのでは?
必死だったので気付かなかったけど、下手したら俺、殺されてたかも…今頃になってめちゃめちゃ怖くなってきた。
ビーチに戻るとすっかりいつもの感じに戻っていた。子供は直美さんやセンターのスタッフの素早く的確な処置により、大事にはいたらなかったそうだ。
|