■直美編■
4日目【7月24日】


 
 

◆7月24日<昼>◆
『ある暑い夏の日の午後2



 

 食事が終わって俺達は海へと繰り出した。
 俺は一人ボートを膨らませてる。
 直美さんはボートなんかいらないと、俺を置いてさっさと海へ泳ぎに行ってしまった。

 「よっしゃぁ! やっと膨らませ終わったぞ」
 「やっと来たわね。別にボートなんていらないのに」
 「ふっ、自慢じゃないが…」
 「泳げないっ! とかいうんじゃないでしょうね」
 「馬鹿言われては困るな。昔から遠泳師のマコちゃんと言われた俺が泳げないわけないっ! その辺は心配ノッシング!」

 ぴしっ! と人差し指を立てて直美さんに答える俺。

 「俺がダメなのはクラゲだよクラゲ」
 「クラゲぇ?あんなの気にしてたら、海では泳げないわよ」
 「甘いな。クラゲには鮫より警戒せよ。これは海洋アドベンチャーの常識だ」
 「まぁ、発光しているクラゲには絶対近づくなというけれど…それがボートとどう関係してくるの」
 「クラゲが目の前に現れたら、とうぅ!」

 俺は見事なジャンプでボートに飛び乗ったっっ!!!
 …が、上半身しか乗れず足をバタバタさせた。

 「…って避難できるようにだな…」

 必死にボートに乗っている俺は、他人から見たら間抜けなんだろうなあ。

 「ぷっ、変な奴」

 ああ、やっぱり笑われた。
 よし、なんとか乗れたぞ。

 「直美さんも上がっておいでよ。少し身体を休めたら?」
 「そうね」

 俺は直美さんの手を取ってボートに引き上げる。
 そして向かいに座らせると俺はボートを漕ぎ始めた。

 「…って、ちょっとなんて狭いボートなの」
 「え、だって二人用だよ」
 「それは最大乗員でしょ。こんなビニールボートの基準なんて子供を対象にかかれてるの。まったく、波が来る度にボート自体が波打ってるじゃない」
 「でもちゃんと二人乗れてる」
 「ちゃんとは乗れてない。きゃ、ちょっとへんな所さわらないでよ」
 「わ、わざとじゃないよ」
 「ちょっと、きゃあああ」

 大きな波にボートが大きく揺れて直美さんが俺の方に倒れ込んだ。
 俺の胸に直美さんがいる。
 思ったより小さいんだな直美さんの身体。なんて思ったりした。

 「…あのねぇ」
 「は、はい?」
 「一人で乗ってるぶんには問題ないわね」
 「たぶん」
 「じゃあ、君は降りなさいっっ!!」
 「そ、そんなぁぁぁ」

 ドップーン!!

 俺は直美に海に蹴り落とされた。

 「うわっぷ、非道いよ、直美さん」
 「私の身体を触った罰よ」
 「そのボート俺が膨らましたんだぞ」
 「レディーファースト!」
 「……」

 俺は仕方なく馬を引く従者みたいにボートの紐ををひっぱって泳いだ。
 もちろん、クラゲを警戒しながらだ。
 もし、いたら、直美さんに殴られても蹴られても、ボートにしがみつく覚悟だ。
  
 見ると、直美さんはボートの上で寝転がってる。

 「いい天気ね〜、きもちいい」
 「……」
 「なんだか波がゆりかごみたいで、いい気持ち」
 「……」

 「…まこと君、もしかして怒ってる?」
 「いいや、別に〜」
 「そう? …ねぇ、まこと君」
 「なんです」
 「まこと君って、やっぱり好きな人とかいる訳?」
 「え?」
 「君の通ってる学校って共学でしょ? 都会のほうだし、オシャレで可愛い子、いっぱいいるんじゃない?」
 「まあ、確かに俺の学校は共学だけど…」
 「あっ、もしかして実は彼女いちゃったりする?」
 「それはないけどね」
 「でも、気になってる子はいるんだ?」