■直美編■
3日目【7月23日】


 
 
 すっかり暗くなった夜道を、直美さんと肩を並べて帰る。
 遠くに波の音が聞こえて、涼やかな風がゆっくりと流れていた。 

 「まったく、油断も隙もないんだから」
 「べ、別に、暇つぶしに話をしていただけじゃないか」
 「なんで、こんな軟派なヤツのこと、気にしてるんだろうあたしってば……」
 「え?なんか言った?」
 「いいえ!言ってませんっ。ところで何?あたしに用事だったんでしょ」
 「いや、特に用事って訳じゃないけど、たまたま近くに来たもんだから、いたら一緒に帰ろうと思って」
 「それで、わざわざ待っていてくれたわけ?」
 「まあ、そういう事」
 「ふ〜ん。いつもそんな風に言って女の子、口説いてる訳?」
 「もう、勘弁してくださいよ」
 「あはは、冗談よ。まあ、正直、夜道は不安だし、感謝してるわよ」
 
 笑顔で直美さんはそう答える。
 
 「でも、こうやって迎えに来てくれる人がいるっていうのもいいわね」
 「そう思ってもらえると嬉しいよ」
 「やっぱ、一人で夜道を歩いて帰るのって、怖いし、寂しいもの。誰かが一緒にいてくれるだけで、全然違うものだわ」
 「恵理香ちゃんとか、職場の人と一緒に帰ることってないの?」
 「みんな帰る方向が違うからね。たまに帰る時間が一緒な時、沢田さんに車で送ってもらう事もあるけど、それ以外は一人で帰宅かな」
 「まあ、直美さんほどの腕を持っていれば、仮に襲われそうになっても撃退できるだろうけどね」
 「そういう問題じゃないの。これでもあたしは女の子よ。いくら腕に自信を持っていたって、不安なものは不安だし、心強い相手と一緒にいるってだけで、気持ちも違ってくるわ」
 「心強い相手って…俺が?」
 「一応ね。体力ない軟派君でも、いてくれるだけでもずいぶん気持ちが変わるものだわ」
 「素直に喜べないケド、そういう事なら待っていた甲斐があったってもんだ」

 こういうことも、恵理香ちゃんの言っていた「女の子として扱う」ってことになるんだろうか?
 まあ、なんにしても直美さんの機嫌も直ったようだし、よかったな。