◆7月23日<夜>◆
『恵里香ちゃんとお話』
夕食後、俺は天乃白浜海岸へやって来た。
営業は終わってるけどビジターセンターの事務所にはまだ明かりがついている。
直美さんまだいるだろうか? ちょっと寄ってみようかな?
「こんばんは〜っと、あれ、恵理香ちゃん」
「あ、いらっしゃい宇佐美さん」
センターの事務室には恵理香ちゃんが一人でなにやら書類を書いていた。
「直美さん、もう帰っちゃった?」
「いいえ、いますよ。沢田さんと会議室で打ち合わせ中です」
「そうなんだ。まあ、特に用事って訳じゃないしな…邪魔して悪かった。それじゃ」
「打ち合わせ、すぐ終わると思いますから、ここで、待っていらしたらどうですか?」
「でも、恵理香ちゃん仕事中だろう? 俺がいると迷惑にならないか?」
「いえ、これはただの暇つぶしです。私も直美さんたちが戻ってくるのを待ってるだけですから」
「それなら、待たせてもらうな」
「どうぞ、そうぞ」
俺は恵理香ちゃんの薦められるまま、適当な机の椅子に腰掛けた。
「お迎えなんて、なんか彼氏さんみたいですね。…って言うか、もしかして本当に彼氏?」
「ま、まさかぁ。たまたま近くに来たから様子を見に来ただけだよ」
「へぇ〜。でも、直美先輩のこと、気になってるでしょ?」
興味深々といった感じで恵理香ちゃんは俺に聞いてきた。
「そりゃぁ、まあね」
「最近、どうも先輩の様子がおかしいと思っていたら、こういう事だったんですね」
「様子がおかしいって?」
「妙に浮かれていたり、いつも以上に身なりを気にしていたり、急にお化粧とかに興味を持ち出したりして、なんからしくないんですよ」
「そ、そうなんだ」
「それに、よく誰かさんの話をしてますよ。すごく楽しそうに」
「……」
「今まで、先輩って浮いた噂ひとつない人だったのに、なんか調子狂っちゃいます」
「そうなん? ちょっと意外だな」
「先輩が高校の時は、けっこう同性の間では人気あったんですけどね。でもちょっと男の子たちからは距離を置かれているような感じだったです。先輩の方も恋愛沙汰には興味がないっていう感じで…」
「まぁ、女の子から人気があるのってわかるな」
「先輩は女の子っぽくないっていっても、先輩を女の子としてみてくれる人がいないからなんですよね。宇佐美さんが女の子として先輩を扱ってくれたら、変わるんじゃないかな?」
「いや、まあ…善処してみまふ。そ、そんなことより、そういう恵理香ちゃんは彼氏とかいるの?」
なんとなく恥ずかしくなって、俺は話題をそらそうと、反撃に出た。
「私ですか? …それは御想像におまかせします」
「まぁ、恵理香ちゃん可愛いからなぁ、いそうな感じだな」
「あはー、可愛いだなんて〜」
「ちょっと、こんな所にまで来てナンパしないでくれる?恵理香に手をだしたら私が承知しないわよ」
声の方へ振り返ると、いつの間にか腰に手をあててに直美さんが事務所の入り口に立っていた。
「なんだよ待っててあげたのに」
「ふふふ…。先輩達って面白いですね」
「何言ってるよ、恵理香…じゃあ、帰るわよまこと君」
恵理香ちゃんにからかわれて、ぶっきらぼうに直美さんは俺を事務所から連れ出した。
それにしても、ちょっと驚きだ。
恵理香ちゃんの言う事が正しければ、結構、脈アリってことじゃないのか?これって。
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