俺は砂の上に置いていたゴミ袋の束から一枚取ると、ゴミを拾い始めた。
「え? ちょ、ちょっと、まこと君、別に君に対して言ったわけじゃないわよ、そんな手伝わなくてもいいからっ」
慌てて俺を止めようとする直美さん。俺は「いいんだ」というしぐさをした。
「俺も遊びに来ている側の人間だから、せめてこれくらいやりたい」
「まこと君がそんな奴らの尻拭いする必要ないよ。私は仕事でやっているんだから、気を付かなくていいわよ、ホントに」
「いや、直美さん達、地元の人たちが、こうやって綺麗にしてくれてるから、俺たちが気持ちよく海を楽しめるんだ。それって当たり前のようだけど、本当は凄く感謝しなくちゃいけない事だって思ったんだ。だからせめて手伝わせてくれ」
「そんな、悪いわよ」
「あのさ、俺、直美さんに会わなかったら、そんな連中と同じ事をやってたかも知れない。だから、身をもって自分を戒めたいんだ」
「…わかったわ。ありがとう、まこと君」
俺は直美さんと一緒にしばらくの間、砂浜のゴミを拾って歩いた。
確かに、花火のカスが多いが、それ以上に、一般の海水浴客のゴミも多い。
「結構、ゴミって多いなぁ。せっかくの綺麗な砂浜なのに…」
「そうね。なんだかいたたまれなくなるよね。それだけ無神経な人が多いって事よ。本当に自然を楽しみたくて海に来ているんなら、その自然を汚して帰るなんて恥知らずな事は出来ないはずなんだけどね」
「自分勝手な人間が多いって事なんだろうな」
「でもさ、ちゃんとまこと君のように分かってくれる人もいるから、それが救いだと思うな。だから私も頑張ろうって気持ちにもなれるの」
微笑みながらそういう直美さん。
そう言ってもらえると、俺も手伝っている甲斐があるってものだ。
アウトドアライフなんて言うけど、本当に自然を楽しみたくてアウトドアをしてる人がどれだけいるだろうか? 海を汚し、山を汚し、楽しませてくれた自然に感謝することを忘れてしまっている。
ただオシャレだから、流行だからとかいって、使い捨て商品を持って海や山を訪れる。自然を楽しむだけ楽しんだら、それを持って帰りもせず、現地に捨てて帰る。
なんとも、いたたまれない話ではないか。
俺は直美さん達のような、現地の人々の苦労が少しだけわかった気がする。
そして俺自身、そういった無神経な行楽客になるまいと心に誓った。
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