トルルルルル・・
「3番ホームに電車が入ります。白線の内側までお下がり下さい」
構内にアナウンスが響きわたる。彼女の乗る電車がホームに入って来る。
「あのね・・宇佐美君」
電車が入って来るのを見ていた俺に彼女が話しかける。
「何?」
「一つだけ・・もう一つだけ、わがまま聞いてくれるかな・・」
上目使いに俺を見る小野寺さん。顔は笑ってるけど、目は真剣だった。
「8月23日に・・花火大会あるでしょ?よかったらつきあって欲しいんだけど・・」
「それは、恋人として?それとも友達として?」
「それは・・だって新学期始まってないから・・」
恥ずかしそうにそう言う彼女。
「ははは、冗談だよ。別にどっちでもかまわないさ。もちろんOKだとも」
「本当?それじゃあ、詳しい事は後日電話するね」
「ああ。気を付けて帰れよ」
「うん。ほんとうにいろいろありがとう。お姉さんたちにもよろしく言ってったって伝えてね」
「わかった。それじゃ」
俺がそう言うとドアが閉まる。動き出す電車の窓で小さく手を振る彼女。俺はそれを見えなくなるまで見送った。
でも内心、動揺を隠せないでいた。確かに今朝の時点ではお互いの気持ちを確認しただけで、その後のこと・・つきあうとか、恋人になるとか、そんなことを別に約束した訳ではなかった。キスもしてしまったけれどそれが即、つきあう事になるとは限らない。でも俺は自然な流れで恋人同士になれると思っていた。
二人の間に立ちはだかる問題なんて、すっかり忘れてしまっていた。
俺は失意を胸に駅のホームを後にしたのだった。