◆7月26日<夜>◆
『最後の夜』
とうとう明日で家に帰るのかぁ…。
最後の日の夜。
俺はひとり、二階のベランダから夜の景色を眺めていた。
ぽつぽつと灯っている街灯。住宅街の向こうは松林。
そしてここからは見えないけど、その向こうに海があるはずだ。
風にかすかな潮の香りがする。
俺はこの町に来てからの一週間の出来事を思い返した。
ビーチに小野寺さんが突然やって来た事。一緒に海に潜った事。山を歩いた事。みんなでわいわい焼き肉を食べたこと。駅で家出した彼女を見つけた事。そして彼女とのキス。
何事にも前向きで、いろんなものが好きで、生き生きとしている彼女。意外だった彼女の過去。そして俺に対する気持ち。
もし俺がこの町に来ていなかったら…そして小野寺さんが俺に会いに来てくれなかったら、俺達の想いはすれ違ったままだったのかもしれない。
確かに結果としては以前と変わらないけど、誤解が解け、お互いの気持ちが分かった事はよかった事だ。
俺の中に行き場のないせつない気持ちは残っているけれど、その事を考えても仕方がない。
とにかく、この町に来て俺は良かったと思う。
俺はそんな事を考えながらこの町での最後の夜を過ごした。
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