「わたし中学は宇佐美君と同じ学校だったのよ」
おもむろに小野寺さんがそんな事を話し出す。
「そ、そうだっけ? ごめん、知らなかった。てっきり、どこかの私立に行ってたものと思ってたよ」
俺は同じ地域なのに中学の時の彼女を知らなかった。
高校に入って初めて弘に紹介されたんだ。
確かに、その事は疑問に思っていた。ただ聞く機会がなかったから特に気にはしていなかっただけだ。
「知らないのも無理ないわ。クラスのみんなには黙っているけど、実はわたし、宇佐美君たちより1学年上だったの」
「え?」
「中学2年の時、大きな手術を受けて半年ばかり入院していたから」
「それで進級できなかったんだ」
「うん。それ以前も入退院を繰り返していて…。でもその手術を受けてからは大丈夫。わたしも普通の人と同じように学校に行けるようになったわ」
なるほど。それでかぁ…。
彼女は学校の成績がずば抜けて良い。学年トップクラスである。理由は多分そのあたりにあるのだろう。
彼女の成績をみるとうちの学校のレベルではない。有名進学校だって受かっていたはずだ。
中学の時はきっと入退院を繰り返していたせいで、まともに勉強できなかった為、受験で実力が発揮できなかったのだろう。
「それでね、わたしが入院している時、よく弘が来ていろんな事を話してくれたわ。その話の中に、ある友達の事がよく出てきたの。わたしね、話を聞いているうちに、その人の事、凄く興味を持つようになって、会ってみたくなったの」
「……」
「その人と初めて話をしたのは高校に入ってからだけど、そのずっと以前からわたし、その人の事、見ていたわ」
う〜ん、うらやましい奴め、誰なんだろ?その友達っていうのは。
彼女の眼差しは真っ直ぐ俺に向けられている。
え?もしかして…。
俺はその表情を見てはっとなった。
「その人ってもしかして…」
「そう。宇佐美君、あなたよ」
驚きで俺は言葉に詰まった。
「いや…でも…」
「いいの。わたし気持を伝えただけで満足だから。宇佐美君がわたしの事なんてなんとも思ってない事は分かってるわ。宇佐美君、優しいからこうしてつき合ってくれてるって分かってる。わたし、それでも…慰めであっても宇佐美君と一緒にいたかった。ひとときでも、あなたの隣を歩いてみたかったの」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんで俺が小野寺さんの事なんとも思っていないなんて…」
彼女の誤解に驚き、慌てて口を挟む俺。
「宇佐美君、わたしの事、ずっと避けてた。私が気持を表しても聞き流していた」
「それは…いつも冗談だって」
「わたし、宇佐美君に冗談であんな事いったつもりなかったよ。いつだって本気だった」
「え?」
「嘘なんて一つもなかったよ」
「小野寺さん…」
彼女の真剣な表情に俺はショックを受けた。知らず知らずのうちに俺は彼女を傷つけていたんだな。
まさか、本気で俺の事、想っていたなんて…。