■美和編■
6日目【7月26日】


 
 
「OK。じゃあちょっと着替えて来るから。玄関で待っていて」
「うん」

 外に出るとなると、さすがに短パンにシャツでは格好悪い。
 それにせっかくの彼女のお誘いなのだ。少しは身だしなみに注意しないとな。

 準備をして再び合流した俺達は、そっと家を抜け出した。

「ほら、これを着て」

 俺は彼女に薄い長袖シャツを手渡す。姉貴の洋服ダンスから一枚、失敬してきたのだ。

「夏とはいえ、こんな早朝は気温が下がってるからね。それに小野寺さんは病み上がりだしさ」
「ありがとう」

 そうしてそれを羽織る小野寺さん。
 そんなやりとりをしながら、俺達は海岸を目指した。

 松林の中の道。
 見上げれば木々の隙間から月が覗いていた。

 俺達はその薄明かりを頼りに歩く。
 アスファルトは乾いていたが、草木にはまだ水滴がついていて、それがキラキラ光っている。
 彼女はなにもしゃべらないし、俺もなにもしゃべらない。虫の音を聞きながらただゆっくりと歩いていた。

 臨海公園に来た俺達は、海を目の前にしてフェンスに寄りかかる。
 当然の事ながら誰もいない。
 空はわずかに青みを帯び、水平線や雲の形をうっすらと浮かび上がらせる。
 その幻想的な景色を二人で眺めていた。

「う〜〜ん! やっぱり外の方が涼しいし気持ちいい」
「ごめんな。うちの姉貴、寝る時はクーラー入れない主義なんだ」
「謝る事ないよ。都会と違ってこっちの夜は過ごしやすいもの。クーラーなんて使わなくても済むなら、使わないほうがいいわ。体によくないもん」
「確かにね。俺達の住んでる町とは違って、ここは夜になるとけっこう過ごしやすいよなぁ」

 それは俺も気がついた事。タオルケット一枚じゃ、時々寒いなって思えるほど夜になると涼しくなる。

 でもこれが本来の姿なんだろうな。

 なんて考えながら、まだ星のきらめいている空を見上げた。