「OK。じゃあちょっと着替えて来るから。玄関で待っていて」
「うん」
外に出るとなると、さすがに短パンにシャツでは格好悪い。
それにせっかくの彼女のお誘いなのだ。少しは身だしなみに注意しないとな。
準備をして再び合流した俺達は、そっと家を抜け出した。
「ほら、これを着て」
俺は彼女に薄い長袖シャツを手渡す。姉貴の洋服ダンスから一枚、失敬してきたのだ。
「夏とはいえ、こんな早朝は気温が下がってるからね。それに小野寺さんは病み上がりだしさ」
「ありがとう」
そうしてそれを羽織る小野寺さん。
そんなやりとりをしながら、俺達は海岸を目指した。
松林の中の道。
見上げれば木々の隙間から月が覗いていた。
俺達はその薄明かりを頼りに歩く。
アスファルトは乾いていたが、草木にはまだ水滴がついていて、それがキラキラ光っている。
彼女はなにもしゃべらないし、俺もなにもしゃべらない。虫の音を聞きながらただゆっくりと歩いていた。
臨海公園に来た俺達は、海を目の前にしてフェンスに寄りかかる。
当然の事ながら誰もいない。
空はわずかに青みを帯び、水平線や雲の形をうっすらと浮かび上がらせる。
その幻想的な景色を二人で眺めていた。
「う〜〜ん! やっぱり外の方が涼しいし気持ちいい」
「ごめんな。うちの姉貴、寝る時はクーラー入れない主義なんだ」
「謝る事ないよ。都会と違ってこっちの夜は過ごしやすいもの。クーラーなんて使わなくても済むなら、使わないほうがいいわ。体によくないもん」
「確かにね。俺達の住んでる町とは違って、ここは夜になるとけっこう過ごしやすいよなぁ」
それは俺も気がついた事。タオルケット一枚じゃ、時々寒いなって思えるほど夜になると涼しくなる。
でもこれが本来の姿なんだろうな。
なんて考えながら、まだ星のきらめいている空を見上げた。
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