■美和編■
4日目【7月24日】


 
 
「ごちそうさま、ありがとう。本当に美味しかったよ」
「うん。満足してくれてよかったわ」

 そう言って空の弁当箱を返す。小野寺さんのほうはと言うと…ありゃ、全然食べてないじゃん。

「あははは。なんだか話に夢中になっちゃって…。急いで食べるから、ちょっと待って」

 俺の視線に気づいて、少し頬を赤らめて箸を動かす彼女。

「いいよ。いいよ。俺が話しかけたんだから気にすることないさ。ゆっくり食べなよ」
「うん。ありがとう」

 そう言いつつも、少し早いペースでごはんを口に運ぶ小野寺さん。俺は焦らせまいとベンチから立ち上がって、近くの手すりに寄りかかり景色を眺める。

 太陽が眩しい。
 やっぱ、陽があたる場所は暑いな。

「あは、でも…なんか、本当にデートみたいだよね」

 小野寺さんが背中越しにつぶやく。

「デートじゃないのかい?」

 振り返って小野寺さんに言った。

「え? うん、そういう意味じゃなくて…ほら恋人同士みたいだって事」

 それを聞いて俺は現実に引き戻されたようで、少し寂しい気分になった。

 俺らの関係ってなんなんだろう?
 彼女に言わせれば「なに言ってるのよ友達でしょ」って事になるんだろうけど…。
 まあ、彼女にとって俺は友達以上のものではない。せいぜい弘の代役って言った所かな。
 でも、それでもいいんだ。
 俺はそれを納得してこうしてデートしているんだから…。

 でも、本当にいいのか?
 なにかが俺の中でつぶやく。
 でも、俺はあえてそれを無視することにした。

「…宇佐美君? …宇佐美君ってば!」
「あ…え? なに?」

 俺はいつの間にか考え込んでしまったらしい。彼女に顔をのぞき込まれてやっと我に返る。

「どうしたの? 考え事?」
「ごめん。ちょっとね」
「そう。食べ終わったよ。もう一休みしたら降りよう」
「ああ」

 俺達はしばらく木陰の下のベンチから遠くの海を眺めてから、どちらとも無く立ち上がり、展望台を後にした。