「なにしてるんだよ、弘」
そんな俺の問いかけに、シー!と人差し指を口に当てる仕草を強調した。
「え? どうしたの? 宇佐美君」
聞いてくる小野寺さんに俺は弘を指さした。
「えっと、なに? …あああ!! あんた、なンかやったわね! ちょっと、手にしてる物見せてごらんなさい!」
「まこと、てめぇ! 裏切りやがったな!」
「誤魔化さないで! ほら! みせないさい!」
小野寺さんは弘から瓶をひったくった。
「なっ!! お酒じゃない! まったく、何考えてるのよ! お姉さん〜」
「あ、馬鹿っ、博子さんを呼ぶな」
弘が止めようとしたがすでに遅し。
姉貴は「どうした?」と言った顔つきで俺達の所にやってくる。
「あの、弘がこんな物を…」
「ウイスキーじゃないか。お前何処からこれを?」
「…家の親父の書斎から、ちょっと拝借してきた」
「はぁぁ! まったく、ガキのくせにこんなもの持ち込むとは…」
あきれ顔で弘を見る姉貴。
「いいじゃないかよ。博子さん達だって飲んでいただろ?」
弘は、テーブルに残っているビールの缶を指さして言う。
「あのなあ。わたしは飲んでない。飲んでいたのは康太郎だけだ…って、そう言う問題じゃないだろう!」
おもむろにビールの缶をつかんで、弘の鼻先に押しつける姉貴。
「ここになんて書いてあるか分かる〜? ぼくぅ? アルコールは20歳からって書いてあるのよ〜」
「ん〜僕、子供だからよくわかんな〜い…ぎゃ!」
ふざけて言い返した弘に、姉貴は得意のデコピンを食らわせた。
頭を押さえて倒れ込む弘。
うわ! 姉貴のあれ、めちゃちゃ痛いんだよなぁ。見ていただけでも痛くなるよ…。
「っ……っ……」
声にならない声を出して弘は痛みにもだえていた。
しばらくしてのろのろと起きあがる。
「まことぉ〜、もしかして血ぃ出てない? 出てない?」
情けない声で涙目の弘がおでこを指さす。少し青じんでるようだが出血はしてなかったから俺は首を横に振る。
「とにかく、これは没収だな」
「あああ〜! それってなんかずるくない? 後で自分で飲んだりするだろう?」
そう非難の声を上げる弘。家の中に入ろうとした姉貴は無表情のまま振り向いた。そしておもむろにウイスキーの栓を抜くとそれをひっくり返した。
どぼどぼと地面に吸い込まれるウイスキー。
阿呆面でそれを見る弘。
中身が全部がこぼれ落ちると、ご丁寧にも姉貴は数回瓶を上下に振って、中にあった水滴まで落とす。
「これで文句無いな弘」
「あ…あい」
こくんと阿呆面のままうなずく弘。姉貴はそのまま何事もなかったようにベランダから家に上がった。
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