ちょっと遅くなったし、なにより小野寺さんが酔っている事もあって、姉貴が二人を送っていく事になった。ついでだから俺もついていく。
「嫌だあ。弘の隣になんて座ったらわたし妊娠させられちゃう〜。宇佐美君が隣の方がいい〜」
おいおい。小野寺さんってば、なにやら凄いこと言ってるぞ…。
リアシートに弘と座らせようとしたらそんなことを言って駄々をこねだした。
「仕方がない。人妻だけど博子さんの方を…」
しぶしぶ助席に座った弘がそうぼやいて姉貴に頭をどつかれる。
コイツは…。
俺はあきれながら小野寺さんの隣に腰掛けた。
車で約一時間半。前の席では弘がいびきをかいている。そして隣では、小野寺さんが俺の肩に頭を付けて静かな寝息をたてていた。
その寝顔を見てさっきから俺の心臓はばくばくいい続けてる。
髪の香りが鼻につき彼女の体温が肩を通して伝わってくる。
なんてオイシイ構図なんだ…。
「本当に分かってるの? 宇佐美君」
え…?
俺はその言葉に驚いて彼女の顔をのぞき見る。彼女はさっきと同じように寝息をたてていた。
なんだ、寝言か…。
とにかく、もうすぐ彼女の家に着く。それまでそっとしておいてやろう。
「……」
「……」
車内には静かなエンジン音だけが響いていた。
「……」
「…宇佐美…君…」
なんだよ。俺の夢でも見てるのか? …まさかね……って何を考えているんだ俺は。自意識過剰だな。
「…ねぇ、宇佐美君ってば」
「え?」
俺は小野寺さんの顔を見る。彼女はこちらに寄りかかったままの姿勢で俺の顔を見上げていた。もちろん彼女の澄んだ瞳ははっきり開かれている。
「なんだ起きていたんだ」
「ううん、ちょっと寝てたよ」
「お酒、大丈夫? 気分悪くない?」
「うん。もう平気。途中、覚えてないんだけど…私、変なこと言ったりしなかった?」
「特には…」
俺達に説教したのは無かった事にしよう。一応、言ってること理屈は通っていたからなぁ。
「よかった。…あのね、宇佐美君、明日は空いてるの?」
「え? ああ。特になにもないけど」
「また、宇佐美君の所に行っちゃってもいいかな?」
「いや、でも…」
「ごめんなさい。さすがにこう毎日押し掛けちゃったら迷惑だね」
俺が少し言葉を濁した事を気にしたのだろう。小野寺さんは慌てて約束を打ち消した。
「そうじゃなくって、小野寺さんのほうは大丈夫? 疲れたりしてない?」
「うん平気。ほら三本松町ってね、いろいろ遊ぶ所、多いじゃない? わたし自然の中で遊ぶのってあんまり経験ないの。だからつきあってくれると嬉しいんだけど…」
「俺はかまわないよ。それで待ち合わせは天乃白浜?」
「ううん。明日は山の方へ行かない?ほら、あのあたりってハイキングコースとか整備されてて、初心者でも気軽に山歩きが楽しめるって弘に聞いたの。わたしそういうのってした事ないから、やってみたいの」
「OKOK〜。じゃあ明日の朝、三本松の駅前で」
「うん。ありがとう。わがまま聞いてもらっちゃって」
「とんでもない。俺も楽しみだよ」
それを聞いて安心したように微笑むと彼女は瞳を閉じた。
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