■美和編■
3日目【7月23日】


 
 

◆7月23日<夕方>◆
『焼き肉パーティー』


 


「こんにちは〜」

 どこかで聞いた覚えのある女性の声が玄関から聞こえる。
 リビングで昼寝をしていた俺は、まどろみの中で玄関での声のやりとりを朦朧と聞いていた。

「おっ! 二人とも来たね。暑かっただろう? 準備にもうちょっとかかるから上がって待っていてくれ」

 なんだ姉貴の友達か…。

「おじゃまします。あれ〜弘、なにそんな所につっ立ってンのよ。はやくあがろう」

 弘? …なんだか聞いたことある名前だなあ…ってオイ! 弘だって?
 そういえば、この声…。

 俺は思わずがばっと起きあがる。

「きゃっ!」

 予想通りの人物が目の前で短い悲鳴をあげた。
 俺はリビングのドアの横にあるソファで寝ていたのだが、入ってきた彼女を驚かせる結果になったらしい。
 もちろんその彼女とは小野寺さんである。

「どうしてここに?」
「え? だって宇佐美君のお姉さんに誘われたから…」

 姉貴の奴〜。勝手な事しやがって…。
 それに誘ったなら誘ったって言えよな。
 姉貴の事だから黙っていて驚かそうという魂胆だったんだろうけどさ。

「あ、あの…宇佐美君、その…格好が…」

 小野寺さんはそっぽを向いて少し顔を赤らめて言う。

 ん? 何のことだ? って…あああぁぁぁ!!!

 俺は自分の姿を見下ろしてあわててタオルケットで腰の部分を隠す。暑いのでTシャツとパンツ姿で寝ていたのだ…これは恥ずかしい。

「す、すぐ着替えてくるから!」

 俺は慌てて立ち上がると急いで二階に行こうとした。
 次の瞬間、ソファの角で足を思い切りぶつけて体制が崩れる。
 倒れた先には小野寺さんが…。
 俺は彼女を巻き込んで派手に転んでしまった。

「ご、ごめん小野寺さん」
「あいたたた…。ああ、びっくりした。大丈夫よ。いいから早く退いて」

 俺が慌てて彼女の体から離れる。
 そして顔を上げた瞬間、廊下でこちらの成り行きを見ていたらしい弘と目が合った。

「うわぁ、見たぞ! 見たぞ! まことお前、それやばいぞ! やばいなぁ」
「待て! 待て! お前見ていたのなら分かるだろ、事故だ、事故」
「その格好に説得力あるかよ。いくらたまってるっていったって白昼堂々、女の子押し倒すなんて見境のない野郎だ」
「あのなぁ、いい加減にしろよ!違うだろ!!」

 俺はかなり慌てて弁解した。
 からかわれて言われてる事は分かってるのだが相手が小野寺さんなのだ。その事で思わず頭に血が上ってしまっていた。

「まこと、あんたまさか…」

 お盆が床に落ちて派手な音がする。振り向くと姉貴が驚いた表情で立っていた。
 あちゃあ、またややこしい奴が出てきた。

「なんて子なの! よそ様のお嬢さんに襲いかかるなんて! しかも私の家で! ああ我が弟ながらなんて破廉恥な事を…」
「ああ! もう! どいつもこいつも!!」

 俺はいい加減あたまに来て怒鳴り返す。

「まこと〜、逆ギレか?」

 と弘がつっこみを入れる。

「やかましい! 俺は行くからな! …本当に、ごめんな小野寺さん」
「うん。気にしてないよ」

 俺は小野寺さん謝ると、二人からなにか言われる前にさっさと二階に上がった。