あ〜、暇だなあ。
朝食を終えて、特に何もする事がない俺は、リビングでぼげ〜とTVを見ていた。
「なんだ、今日は出かけないのか?」
姉貴がアイスコーヒーを二つお盆に乗せ俺の前にやってくる。
前にある低いテーブルの上にコースターを敷いて、グラスの一つを俺の前に置いた。
「さんきゅ」
「弘と、例のあの娘、え〜と、美和ちゃんだっけ? あの二人はどうした?」
「あのなぁ、姉貴。こんな遠い場所まで、毎日来てくれる訳ないじゃないか。自宅ならまだしも…誰かさんの陰謀のせいで帰れないしさ」
そうなんだ。実は俺は家の鍵を持ってない。
親父達が帰ってくるまで家には帰れないのだ。
くそぅ、これも姉貴の策略の一つにに違いない。
しかし、それに気づかなかった俺も俺だけどな。
「それはそれはお気の毒に」
姉貴は悪ぶれた様子も見せずにさらりと言った。
俺は言い返そうと出そうになった言葉をなんとか飲み込む。
ここでカッとなって言い返したら姉貴の思うツボだ。
ここは我慢我慢…。
俺は冷静になろうとアイスコーヒーを口にする。
「それで美和ちゃんとは進展あったのか?」
ぶっ!!
俺は姉貴の言葉に飲みかけたものを吹き出してしまった。
「あ〜あ。何やってんだよ。ばっちい奴だなぁ」
慌てて布巾を投げ渡す姉貴。
「姉貴が変なこと聞くからいけないんだよ」
「変な事じゃないだろう? お前にとっては大切な事じゃないのか?」
「姉貴には関係ないじゃんか!」
俺はズボンについたコーヒーを必死で拭きながら答える。
「まあな。でも、まこと。悩んでいても何にも解決しないぞ。お前が懸念している美和ちゃんと弘との事だって本人達に確かめてみるまで分からないし、お前が気持ちうち明けない限り、彼女はお前の気持ちに気づくはずもない。悩む前に動いてみればどうなのか? 悩むのはそれからでも遅くはないだろ?」
「分かってるさそんなこと」
「いいか? まず自分の気持ちに素直になることだ。いろんな条件はとりあえず無視して自分の気持ちだけを意識してみろ。「好きだ」って答えが出たのならその事を彼女に伝えるんだ。その後はお前だけの問題じゃなくなるから、状況に応じて考えなきゃいけないけどな。まこと。世の中にはけっこう”思いこみ”や”取り越し苦労”って多いものなんだぞ」
「はいはい」
「ま、わたしには関係ないからな。あとで「どうしよ〜姉貴ぃ〜」なんて言って泣きついてくるなよ」
まったく! よけいなお世話だって!
そりゃぁ、俺だって分かっていたさ。チャンスだった事くらい。
それが簡単に行くぐらいなら悩まないよ。こういう時は弘の軽率さがうらやましいさ。
俺は急いでアイスコーヒーを飲み終えると逃げるように二階の部屋へ戻った。
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