「ホントよ。こんなに大きなタコとか。こんな縞々のついた魚とかけっこう泳いでいたんだって」
小野寺さんが夢中になってシュノーケリングの時の弘に説明をする。
弘の方はいまいち関心がないらしく適当に相づちをうっているだけだ。
食事が終わって、テーブルにはジュースとコーヒーだけ。
誰も「そろそろ出ようか」なんて言い出さなかったから、なんとなく雑談をしている。
「ほんとうだって。ねえ、宇佐美君」
「え? …うん、本当だよ。弘も一度やってみれば。せっかく道具とかあるんだし」
「いいよ。俺は。そういうのってあんまり興味ないし…。それより美和さ、明日も来ようなんて言い出さないだろうな。さすがに連チャンはきついぞ」
「え? …あ、うん。そうね」
「やっぱり、そのつもりだったんだな。なぁ、おまえ、ずいぶんと熱心じゃないか。こんな遠いところまで2日も続けて」
「それは、誰かさんが全然遊んでくれないからね」
「嘘付け。俺がいない方が、都合がいいくせに」
「あ〜ら妬いてるのん、弘ってば」
そう言って俺の腕に腕を絡ませてくる小野寺さん。あう〜。
だから俺をダシに使わないでくれよ、悲しくなるから…。
「そうね〜、明日は一人で来ようかな。そうしたら邪魔者なしでデートだもんね、宇佐美君」
そ、そんなこと、俺に振られても…。
俺は、かなり複雑な心境で小野寺さんを見返す。
「何を馬鹿なこと言ってるんだ。まことのヤツ、迷惑してんじゃないか」
「あ、うん…。ごめん、宇佐美君。変なこと言っちゃって…」
そういて腕を放す小野寺さん。
う〜ん、ホッとしたような、名残惜しいような…。
「さ〜て、そろそろ行くか」
変なふうになった雰囲気を打ち消すように弘が言うと、俺達はその言葉に従った。
レジで会計を済ませてレストランの外に出る。
「今日はもう遅いからここまででいいぜ。まこと」
「え? でも…」
「そうね。また駅まで見送ってもらうのも悪いし…。宇佐美君、いろいろつきあってくれてありがとう。向こうへ帰ったらまた遊ぼうね」
「ああ。わかった。じゃあ、俺はこのまま姉貴の家へ帰るから。二人とも気を付けて帰れよ」
「おう。それじゃぁな」
「ばいばい、宇佐美君」
そう言って駅の方へ歩いていく二人。その後ろ姿を見ておれはなんとなく寂しさを覚えた。
ああ並んで歩いてるの見ると恋人同士に見えるよな。
…俺なんかよりよっぽどお似合いの。
やめ! やめ! …なに卑屈になってんだ俺は。
俺は二人の姿が見えなくなると、振り返って姉貴の家へと歩き出した。