「わかんないんだ」
「何が?」
「自分の気持ちがさ」
俺は正直に言う。弘はしょうがない奴だって顔をして俺を見た。
「なんだよ。迷ってるって事は気になってるって事だろ? 何を迷う事があるんだ。自分の気持ちに素直になる。簡単な事じゃないか」
「お前こそどうなんだよ。小さい頃からずっと一緒だったんだろ? 特別な感情とかは持っているのか?」
それを聞いて、弘は間の抜けた顔になる。
「はぁ? 俺? お前、まさかその事を気にしていたのか? 馬鹿いえ。確かにな、一時期、あいつを異性として意識した頃はあったさ。実際、つきあっていたって頃だってあったんだぜ。でもそのとき、感じたんだ。違うんだよ。あいつとは恋人にはなれない。幼なじみっていうのがしっくりくるんだ。う〜ん、あえて言えば兄妹みたいなもんかな?」
なんとなく遠い目をしながら話す弘。
そうか。やっぱり弘の方には特別な感情ってないのか。
昔、つきあっていたのはちょっとショックだけど、ずっと一緒にいればそういう関係になっていてもおかしくない。
「でも小野寺さんの方の気持ちはどうなんだ?もしお前の事がやっぱり好きでそれを今の関係を保つため黙っているとしたら?」
「ははは。それはないと思うぞ。だいいち俺を振ってきたのはあいつの方だし」
弘は俺の懸念を笑い飛ばした。
「たとえそうだとしても、俺はあいつとは恋人としてつきあう気はないんだ。正直なところ、それこそお前の事を好きになってもらったほうが、お互い助かるンだけどな」
「……」
「まあ、なんにせよ、俺とあいつの関係に対しては遠慮なんかするなよな。あ、美和のヤツ、戻ってきた。とりあえずこの話はここまでだ。続きは今度な」
そう言うと、弘は何もなかったようにソファーにもたれかかった。