「いいかい? もし海水がシュノーケルに入るようなことがあれば、思いっきり息を吹きかけるんだ」
「うん。じゃあ、ちょっと練習してみるね」
俺が説明すると小野寺さんは実際にやってみせた。
それにしてもシュノーケルってやつはよく出来てると思う。水が入らないように弁がついているし、吸うときは上からだが吐くときは口元の弁から空気が出るようになってる。
水中では息を吸わない限り海水は入ってこない訳だ。
「もしも、耳が痛くなるような事があったら、鼻をつまんで肺から息を出して。鼻をかむときみたいに。我慢してると鼓膜がやぶれるらしいよ」
「うんうん」
「それで…」
俺はざっと説明した。それを真剣に聞いている小野寺さん。
「それくらいかな? あとは実践あるのみ。それじゃぁ、やってみよう」
そう言って水中メガネとシュノーケルを付ける彼女。俺もそれに習った。
「小野寺さん。フィンはゆっくり漕ぐんだ。力ずくで、ばしゃばしゃやっても速くすすまないぜ」
「え? …うん分かった」
「足を延ばしたままの状態でゆっくり動かすんだ。それと、潜るときは体を直角に曲げる。そうしないと勢いがつかないからね」
そう言って腕を曲げて説明する俺。
「特に錘を着けて潜ってる訳じゃないから、コツを覚えないと上手く潜れないんだ」
「なるほどね〜。やってみるわ」
しばらく練習すれば彼女も自由に潜れるようになった。彼女は夢中になっているみたいで凄く楽しそうだ。
う〜ん。教えたかいがあったな。
俺は大きく息を吸うと勢い良く海中へ潜り込んだ。
その先には小野寺さんがいる。
彼女はこちらに気付いて手を振って合図を送る。魚と戯れるその姿は、本当に楽しそうだった。
「見た? 見た? さっきこんなおっきなタコがいたのよ」
お互いに水面から顔を出した時、そう言って両方の人差し指で大きさを示す小野寺さん。
「意外とこんな人の多い浜辺でも魚がいるのね」
「まぁ、砂浜の方じゃなかなか見つけづらいけど、こういう障害物のある場所には魚が集まってくるから」
「こういうのって沖縄とかハワイとかじゃないと駄目だって思ってた」
「う〜ん、本格的にスキューバとかやりたいのならそういう場所のほうが全然おもしろいんだろうけどね」
まぁ、なんにせよ、喜んでくれてるみたいでよかった。
その後、俺達は日が傾くまでシュノーケリングを楽しんだ。