◆7月22日<夕方>◆
『シュノーケリング』
「あのね、宇佐美君。シュノーケリングてやったことある?」
肌を焼くためにビーチマットの上で寝そべっていた俺に、小野寺さんがそう聞いてきた。
「シュノーケリング?」
「ほら、これ」
彼女は水中メガネとシュノーケルを持ち上げて俺に見せた。足元にはフィンも転がっている。
「あ〜、素潜りの事ね」
「素潜りって…それはちょっと違うんじゃないかな。シュノーケリングって言うのよ」
シュノーケリング(スキンダイビングともいう)は、スキューバダイビングなどと違い、だれでも気楽に楽しめる水中散歩という訳で、最近、注目されてきたマリンスポーツ。
簡単に言えば水中メガネとシュノーケル、それにフィンを使って水に潜るやり方を言うらしい。
水中呼吸器(酸素ボンベ)を使わずに海中へ潜るわけだから、分かりやすく言えば素潜りには違いない。
「まあ、何度かやった事あるよ。スキューバの免許まで持っている姉貴から、いろいろ基本的な事は教わったしね」
「じゃあ、ちょっと教えてもらえないかな?」
そう言って上目使いで俺を見る小野寺さん。
「それはかまわないけど…」
「あ、宇佐美君の分でしょ? 大丈夫。弘の道具があるから。どうせあっても使わないんだから、勝手に持ってきちゃった。あいつのならサイズ合うでしょ?」
そう言って彼女は俺に道具一式を渡してくれた。明るいブルーで統一されたけっこうシャレたものだ。
へぇ、最近のはデザインも凝ってるなぁ。
俺が小学生の時、使っていたのは黒で縁が金属のちゃちなやつだったのに。
ちなみに小野寺さんのはピンク系だ。
「あれ? これって、ビニールかかったまんまじゃないか。勝手に開けていいのかなぁ」
「いいの。いいの。宇佐美君が開けてあげないとず〜とビニールに入ったまま捨てられるんだから。たぶん、あいつ持っている事も忘れちゃってるんじゃないかな? このまま貰っちゃってもわからないわよ。きっと」
俺はとりあえず付けてみる。
なかなかいい感じだ。これなら問題なさそうだ。
小野寺さんも俺に習って付ける。
「え〜と、シュノーケルはどうやってつけるの?」
「このゴムを水中メガネのここに通して…」
それほど大げさな道具じゃないからすぐに着け終わって立ち上がる。
え〜と、何処で潜ろうか…。
海を見渡して考える。たしかあの岩のあたりに魚がいたような気がするなぁ。
砂浜の海岸にポツンとある、程良よい大きさの岩。あのあたりはけっこう魚とかが集まっていて、投げ釣りをする人とかはけっこうポイントにしているみたいだからな。
あそこに行ってみるか。
「宇佐美君、これ、けっこう歩きづらいね」
気がつくと小野寺さんは先に波打ち際へ向かって歩いていた。
あ〜あ。フィンが曲がっちゃてるよ。
「小野寺さん、違う違う。普通に歩いちゃ駄目だぜ。後ろ向きに歩かなきゃぁ」
「あ、なるほど」
俺は手本に首を回して進行方向を確認しながら、後ろ向きに歩く。その姿に彼女も習う。
そのまま海に入って沖に向かって歩く二人。海面が腰の高さほどの深さになった時、俺は立ち止まって小野寺さんの方を向いた。