「いや、ホント、弘から聞いていた通り、旨いよ小野寺さん」
俺は彼女の持ってきた重箱(この時点で本格的だよな)のおかずを味わいながら言う。一段目には俵状に握ったおにぎり。二段目三段目には唐揚げや卵焼きなどを中心としたおかずが入っていた。
「そうだろう? 美和は昔から料理だけは、上手かったからなぁ」
「料理だけとは失礼ね。べつに弘の為に作ってきたんじゃないんだからね。そんな事を言う奴には食べさせてあげない」
そう言って箱を弘の前から遠ざける小野寺さん
「いやぁ〜、美和は何させても上手いからなぁ! はっはっは」
「……」
慌てて言い直す弘を、無言で見返す小野寺さん。
「…ははは…」
「……弘」
「な、なんだよ」
「ごめんなさいは?」
「へ?」
まじめな顔で言う小野寺さんに弘は聞き返す。
「だから。ごめんなさいは?」
「……」
「そう。本当にいらないのね。…宇佐美君、向こうで食べましょ」
そう言って移動の為に重箱を重ねようとする小野寺さん。
おいおい。なにもそこまでやらなくても…。
「わかった! わかった! ごめん、悪かった」
「誠意がない」
「はい。ごめんなさい。俺が悪かったです」
「最初からそうやって素直に謝ればいいのよ。弘ってそんなんだからいつも女の子に振られてばっかりいるのよ。調子がいいだけじゃあ、駄目なんだらね」
そう言って重ねた重箱を元に戻す小野寺さん。
さすがは幼なじみ。
弘の奴に説教するなんて彼女くらいのものだよ。
「人の好意にチャチャ入れるのって凄く失礼な事なんだよ。分かってる?」
それにうんうんとうなずくと早速料理に箸をつける弘。
それを見て小野寺さんは深いため息をついて「分かってるんだか…」と言いたげに肩をすくめた。
きっと奴は分かってないと思うぞ、小野寺さん。
「さ〜てと、飯も食った事だし、ひと泳ぎしてこようかな〜」
弘はそう言って立ち上がり、わざとらしく背伸びをする。
お弁当の後かたづけをしていた小野寺さんが、不審そうに奴を見た。
小野寺さん鋭い。
弘の奴、きっと昨日ナンパした娘に会いに行くために、抜け出そうとしているに違いない。
「どうしちゃった訳? さっきは泳ぎに行くのあんなに嫌がっていたじゃない」
弘はびくっとなて小野寺さんの方を振り返る。
やっぱり図星だ。
「それは、ほら、あれだ食後の運動ってヤツ」
「弘。食べてすぐ泳ぐのは体に悪いんだよ。もう少し休んでからのほうがいいよ」
「いや、なんだ。ほら、俺ってその気になったらすぐ実行したがる奴だから…」
「まぁいいけど。…じゃあ、なんでシャツ着たまま行こうとしてるの?」
「それはだな…肌焼き過ぎちゃって、これ以上焼けないようにって…」
「それなら日焼け止めもってるよ。わたし」
「ああ! あ、いい。めんどくさいから。それじゃぁな!」
どんどん墓穴を掘って行ってることに気がついたのか、弘は無理矢理、話を切り上げて逃げ去った。
その姿を見て小野寺さんが何かをあきらめたように深い溜息をついた。
たぶん、弘が何処へ行ったのかだいたい察しがついているのだろう。
その姿に一応共犯者である俺は、ちょっぴり罪悪感を感じた。