「いやぁ、今日はほんとうにいい海水浴日和だねぇ」
俺はわざとらしく空を見上げて言う。
小野寺さんは怪訝な表情を俺に向けたが、とりあえず気付かないふりをした。
「なに無視してんの? みんなに言いふらすわよ!」
あ〜〜、なンにも聞こえない聞こえない。
「いやぁ、あの少年達なんて実に楽しそうだ。まさに夏まっさかりって感じだね」
「あの…宇佐美君?」
小野寺さんが俺の名を呼ぶが知らないふりをする。
「お! ほら向こうでバギーを走らせてるぞ、格好いいなぁ」
「宇佐美君ってば!」
「あ〜、なんだい小野寺さん」
さすがに小野寺さんまで無視する訳にはいかないよなぁ。俺は仕方のなく彼女の方に振り向いた。
「いいの? 放っておいて」
「な、なんのことか俺にはわからないなぁ〜。なにか見えるの? 小野寺さ…ぐわぁ」
背中に圧迫を受けて前屈みに転びそうになる。
俺は美鈴におもいっきり背中を蹴飛ばされていた。
「馬鹿男!! あたしを無視しようなんて百年早いわよ!!」
「なにすんだよ! このひねくれ女!!」
「まあまあまあ、二人とも…」
俺と美鈴の間でおろおろする小野寺さん。
「あ、あのね綾部さん。今からわたしたちお弁当を食べるの。よかったら一緒にどう?」
げ! 冗談じゃないよ、こんな女となんて…。
「宇佐美君、いいでしょ?」
「あ、いや…」
「駄目?」
上目使いで俺を見る小野寺さん。うう〜そんな顔されるとな〜。
「わかったよ。別にどうでもいいさ」
「な、何言ってるのよ。あたしはご免だからね!どうぞふたりで仲良くお食べになって!」
そう言って背を向ける美鈴。
「大丈夫よ。弘も来てるんだから。大勢で食べた方が楽しいよ」
相変わらずの調子で答える小野寺さん。
「なぁに? 岸田君も一緒なの? あきれた。二人も男はべらせて、おとなしいふりしてよくやるわね」
「あはは。言われてみればそうかもね。そうかぁ。わたしって男を侍らせていたんだ」
小野寺さんは意外に冷静に言い返す。
「美鈴! 言い過ぎだぞ!」
俺は思わずカチンときて美鈴に怒鳴るが、美鈴はただ「フン!」と鼻をならすと駐車場の方へ立ち去った。
「ごめん、小野寺さん」
「なに? 宇佐美君が謝るような事じゃないでしょ? 綾部さん、ああ言ってるけどけっきょくかまってもらいたいんだと思うよ。誰も本心から人に嫌われたいっていう人いないわ…」
少し寂しげに美鈴の背中を見送る小野寺さん。
「ああ。分かってるよ。でもさあ……」
「さ、早く行ってお弁当食べよ。弘が首を長くしてまっているわよ」
そう言って俺の腕をつかんで歩き出す小野寺さん。
まぁ、彼女が気にしていないならいいか。