■美和編■
2日目【7月22日】


 
 
「いやぁ、今日はほんとうにいい海水浴日和だねぇ」

 俺はわざとらしく空を見上げて言う。
 小野寺さんは怪訝な表情を俺に向けたが、とりあえず気付かないふりをした。

「なに無視してんの? みんなに言いふらすわよ!」

 あ〜〜、なンにも聞こえない聞こえない。

「いやぁ、あの少年達なんて実に楽しそうだ。まさに夏まっさかりって感じだね」
「あの…宇佐美君?」

 小野寺さんが俺の名を呼ぶが知らないふりをする。

「お! ほら向こうでバギーを走らせてるぞ、格好いいなぁ」
「宇佐美君ってば!」
「あ〜、なんだい小野寺さん」

 さすがに小野寺さんまで無視する訳にはいかないよなぁ。俺は仕方のなく彼女の方に振り向いた。

「いいの? 放っておいて」
「な、なんのことか俺にはわからないなぁ〜。なにか見えるの? 小野寺さ…ぐわぁ」

 背中に圧迫を受けて前屈みに転びそうになる。
 俺は美鈴におもいっきり背中を蹴飛ばされていた。

「馬鹿男!! あたしを無視しようなんて百年早いわよ!!」
「なにすんだよ! このひねくれ女!!」
「まあまあまあ、二人とも…」

 俺と美鈴の間でおろおろする小野寺さん。

「あ、あのね綾部さん。今からわたしたちお弁当を食べるの。よかったら一緒にどう?」

 げ! 冗談じゃないよ、こんな女となんて…。

「宇佐美君、いいでしょ?」
「あ、いや…」
「駄目?」

 上目使いで俺を見る小野寺さん。うう〜そんな顔されるとな〜。

「わかったよ。別にどうでもいいさ」
「な、何言ってるのよ。あたしはご免だからね!どうぞふたりで仲良くお食べになって!」

 そう言って背を向ける美鈴。

「大丈夫よ。弘も来てるんだから。大勢で食べた方が楽しいよ」

 相変わらずの調子で答える小野寺さん。

「なぁに? 岸田君も一緒なの? あきれた。二人も男はべらせて、おとなしいふりしてよくやるわね」
「あはは。言われてみればそうかもね。そうかぁ。わたしって男を侍らせていたんだ」

 小野寺さんは意外に冷静に言い返す。

「美鈴! 言い過ぎだぞ!」

 俺は思わずカチンときて美鈴に怒鳴るが、美鈴はただ「フン!」と鼻をならすと駐車場の方へ立ち去った。

「ごめん、小野寺さん」
「なに? 宇佐美君が謝るような事じゃないでしょ? 綾部さん、ああ言ってるけどけっきょくかまってもらいたいんだと思うよ。誰も本心から人に嫌われたいっていう人いないわ…」

 少し寂しげに美鈴の背中を見送る小野寺さん。

「ああ。分かってるよ。でもさあ……」
「さ、早く行ってお弁当食べよ。弘が首を長くしてまっているわよ」

 そう言って俺の腕をつかんで歩き出す小野寺さん。
 まぁ、彼女が気にしていないならいいか。