駅に着く頃には辺りは真っ暗になっていた。
次の電車までけっこう時間がある。
俺たちは待合室で待つことにした。
俺は、このまま姉貴の家に帰ればいいのだけど、なんとなく帰るタイミングをはずしてしまっていた。結局、最後まで見送る事になりそうだ。
「まこと、ちょっとこっちに」
「な、なんだよ弘」
「頼みがあるんだ、いいからこっち」
弘は俺を壁際に連れていく。
そして肩を組んで小さな声で話してきた。
「今日、ちょっと、地元の娘をナンパしたんだ」
これだ…。
「まぁ、お前のやりそうな事だ。それがどうした?」
「上手くいってるんだよ。明日も会う約束をしてある。そこで問題があるんだな」
「なんだよ。面倒な事ならお断りだからな」
「美和が邪魔なんだ」
あああ〜、やっぱり。
あれだけ小野寺さんに詫びを言っておきながら…。
「約束した以上、連れていかない訳にはいかないしさ。明日も美和の事を頼む」
手を合わせて俺に言う弘。
「あのなぁ。それはお前が悪いんだろ? 自分でなんとかしろ」
「頼むよ…もしかして美和が相手じゃ不満か?」
あう…。
それを言われるとなぁ。
確かに内心、嬉しいケド…。
でも小野寺さんは弘と遊びたがってるんじゃないのかな?
「そんなことはないけど…でもなぁ」
「幼なじみの俺が言うのもなんだけど、あいつはいい女だぜ」
「そういう意味じゃない。なんで俺がお前の面倒の始末をしなきゃいけないんだという事だ」
「なに? 面倒の始末って?」
「うわ!!」
急に小野寺さんに割れ込まれて驚く俺達。
「はいキップ」
そう言って弘に券売機で買って来た電車のキップを渡す彼女。
「それで、何はなしていたの?」
「なんだよ、男同士の秘密の話だ」
「なに?わたしには話せないような話なの?」
「そーだよ。だから忘れろ、いいからホームへ行くぞ」
弘は突き放すようにそう言うと、さっさと改札の方に歩き出す。
「なによ…。なんかヤラしい」
そりゃどういう意味なんだ…。
弘の背中を追いながらそう漏らす彼女に思わず突っ込みを入れたくなったが、話をぶり返したくなかったので黙っておくことにした。
「宇佐美君、今日はありがとうね。いろいろといらない気をつかわせちゃったかな?」
こちらの方を振り向き軽く微笑んで言う小野寺さん。
「礼を言うのは俺の方だよ。おかげで退屈しなくて済んだしね」
「よかった。もしかして迷惑してるんじゃないかって心配しちゃった。明日もよろしくね。10時過ぎに来るからビーチの今日場所取りした所で待ってて」
「ああ、わかった。じゃあ二人とも明日」
改札の手前で立ち止まると、改札を抜けた二人を見送る。
「じゃあな、まこと。さっきの件、よろしくな」
軽く手を挙げてホームへ向かう弘。その隣でこちらを振り返りが小さく手を振る小野寺さん。
そんな二人をなんともいえない複雑な想いで見送った。
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