■美和編■
1日目【7月21日】


 
 

「宇佐美君は泳ぎは得意なの?」

 不意に小野寺さんが俺に聞く。

「もちろん。昔は遠泳師のマコちゃんって言われたほどだよ」
「え? なにそれ?」
「嘘じゃないって。小学校の時の体育の水泳記録会で2km泳いで、いいかげん止めろと先生から止められたほどなんだぜ」
「ふ〜ん、泳ぎには自信があるわけだ」

「そういう、小野寺さんはどうなんだよ」
「わたし? わたしは高1の時、半年ほどスイミングスクールに通ったから一応は泳げるわ」
「それじゃ、昔は泳げなかった訳?」
「う…うん。泳げないっていうか、泳ぐ機会がなかったから泳いだ事なかったの」
「え? でも、学校の体育とかで水泳とかなかった?」
「ちょっとね。事情があって…」

 小野寺さんは言葉を濁す。俺もあえてそれ以上聞かない事にした。
 う〜ん、話したくない事を無理矢理話させるのはよくないよな。話す必要があれば教えてくれるさ。

「じゃ、沖まで競争しよ。よ〜い、どん!」

 強引に言って海に飛び込んだ小野寺さんを慌てて追いかける俺。

 いきなりなんてずるいぜ、小野寺さん。

 見事なクロールを見せる彼女を俺は平泳ぎで必死に追いかけた。
 高い波が来る。それに気づかず泳ぎ続ける彼女。
 案の上、波に呑まれた。

 慌てて助けにいく俺。
 幸い足が届く深さだったのでなんの事はなかったが、彼女は水をまともに呑んだらしく大きく咳き込んでいた。

「コホッ! コホッ! コホッ!」

 苦しそうに咳をする小野寺さん。

「大丈夫かよ。小野寺さん」

 俺は思わず彼女の背中をさすっていた。

「ご、ごめんね。ちょっと調子に乗りすぎたかな?」

 涙目ながら照れ笑いして言う彼女。
 俺は無意識に小野寺さんの背中をさすってる事に気がついて、慌てて手を引っ込めた。