◆7月21日<昼>◆
『2人きりになれた!?』
「もう! まったく弘ったら、またいなくなっちゃったわね」
腰に手を当てて辺りを見回す小野寺さん。
怒った顔も少し可愛かったりする。
「俺、探してこようか?」
ビーチチェアにうつ伏せになって背中を焼いていた俺はそう言って立ち上がる。
姉貴たちは俺たちに気を使ってか、早々に引き上げていて、今は彼女と二人きりだ。
「え? いいよ、いいよ。勝手にどこかに行った人が悪いんだわ。あんな奴、放っておいて泳ぎに行こ」
「いや、でもさ…」
「い〜んだって。もしかして…わたしと一緒じゃ迷惑?」
俺の顔をのぞき込むように言う小野寺さん。もちろん俺はぶるぶる首を横に振って否定した。
「じゃ、行きましょ」
そう言って俺の手を取り波打ち際へ駆け出す小野寺さん。
少し強く握られている手を意識しつつ、俺は彼女に引っ張られて行った。
「ひやぁ〜冷たい!」
小野寺さんはゆっくり沖に歩いていく。
「最初、水に浸かる時って勇気がいるのよね」
夏とはいえ、最初、海の水は多少冷たく感じる。
入ってしまえばなんて事ないんだけどね。
立ち止まって海面を見つめている彼女に、少し意地悪をしてみたくなった。
え〜い、いつもからかわれている仕返しだ!
俺は海水を手ですくって彼女の背後に近づく。
「きゃぁ!」
俺は彼女の背中に掬った海水を流した。驚いて飛び上がる彼女。
「もぉ! ひどいわね」
「いいじゃん、これで少しは慣れたんじゃない?」
「えい!」
そう言って両手で俺の胸めがけて海水を浴びせかける小野寺さん。でも俺は平然とそれを受ける。
「残念。俺、もう何回も海に入ってるからなんてことはないよ」
「ぶ〜!」
すごく不満そうに俺を見る小野寺さん。
う〜、もしかして本当に怒った?
「ははは…。ごめん、ごめん。さ、気を取り直して泳ごうぜ」
俺はその視線を笑って誤魔化し、沖にに向かって歩き出した。
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