「お〜い、美和!」
誰かが大声で小野寺さんの名前を呼んでいる。
振り向くと一人の男がこちらに駆けてくるのが見えた。
岸田弘だ。
「弘、どこ行っていたの。探したのよ」
「ごめん、ごめん。あれ?」
「よう。弘」
俺はとりあえず右手を挙げて挨拶する。
「いた、いた! こいつを探していたんだよ。まったく、こんな所にいやがって」
どことなくわざとらしい言い方で、俺に理不尽な文句を言う弘。
よく言うよな〜。
どうせその辺の女の子のお尻でも追いかけていたに違いない。
「岸田弘か。久しぶりだな」
「げ…! ひ、博子さん…」
姉貴に声をかけられたとたん逃げ腰になる弘。
なんだぁ?
確か学校でもウチの姉貴は苦手だとか言っていたな…。
「そうか。岸田の恋人だったのか、彼女は」
「違います。弘はただの幼なじみです」
やけにはっきりと否定する小野寺さん。
確かにこの二人、幼なじみだから、よく一緒にいるという事はあるが、つき合っているという雰囲気はない。
少なくとも弘を見てると小野寺さんの事を恋愛対象とみていないことがよく分かる。
でも彼女の方はどうなんだろうか?
いつだったか、放課後の事だ。
俺は校庭から彼女がひとり窓の外を見つめてため息をついているのをみつけた。
その視線の先には、女性徒と楽しそうに話しながら帰る弘の姿があった。
そのとき悟ったんだ。小野寺さんは弘の事が好きなんだと…。
彼女と奴の間には俺では踏み込むことのできない深い絆があるのは明確だ。
だからこそ、奴が彼女を作っても、ころころ相手を変えても、想い続ける事ができたいるんだと思う。
「宇佐美君。とりあえず、私たちの荷物、こっちに持ってきてもいい?」
「え? ああ、かまわないけど…」
「じゃぁ、取りにいこう。弘」
そう言って小野寺さんと弘は戻って行った。
「まこと、なにボーっとしてんだ。お前も手伝いに行ってやれよ」
「え?」
「だから、荷物運ぶのを手伝ってやれよって言ってるんだ。気が利かない奴だな」
「ああ、そうか」
姉貴に言われて俺は慌てて二人の後を追った。
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