雨が上がって、俺達は桟橋から外へ出た。空にはもう月と星空が広がってる。濡れた美鈴の髪が月明かりに反射して輝いて見えた。
抱きしめた彼女の感触が肌に残っているものの、二人とも意外と冷静だった。人が数人、こちらにやって来るのをただ黙って見つめたいる。
「美鈴様、探しましたよ。すぐに別荘にお戻り下さい」
やって来たのは優紀さんとさっきの大野宮の舎弟だった。
「大野宮の奴、もう連絡したのか…」
優紀さんが来たということは、美鈴の父親にも連絡が行っているという事だ。
「さ、早く、旦那様がお呼びです」
美鈴の肩に手を添えて促す優紀さん。
「わかったわ」
「美鈴!!」
「宇佐美君。私の事は心配しないで…大丈夫」
満足げに微笑み俺を気遣う美鈴。その微笑みは何処か諦めたという感情が含まれているようで怖かった。
「俺も行くよ」
「今日はお引き取り下さい」
ついていこうとした俺を優紀さんが拒否する。
「優紀さん!!」
優紀さんにくってかかろうとした俺を美鈴が制する。
「ありがとう、まこと。今日のことは私、一生忘れない…じゃあ。行くわよ。深川」
なんだよそれ。もう逢えないみたいな言い方じゃないか。側にいてあげると言ったのは同情なんかじゃないぜ、美鈴。
俺は呆然と立ちすくんで去っていく美鈴の後ろ姿を見送った。
姿が見えなくなって俺は我に返り、俺を心配して残ってくれていた優紀さんに頭を下げると裏口の鍵を返した。
「大丈夫? まこと君」
「…はい。なんとか…」
「まこと君、後のことは私がなんとかするから…早く帰って傷の手当をなさい」
優紀さんは小声で優しくそう言うと美鈴の後を追ってに別荘の方へ行った。