「やめて!! 放しなさい!!」
突然、聞き覚えのある声が部屋に響きわたる。
「美鈴!!」
大野宮が驚いた声をあげる。
「馬鹿、お前、何で戻って来たんだ」
舎弟が手を離すと、俺は床に倒れ込んだ。
くそっ、頬がじんじんするぜ。
口の中はは何カ所か切ったみたいだし、相当痛い。
俺は歯を食いしばって痛みに耐える。
見ると俺と大野宮の間に美鈴が両手を広げて割り込んでいた。
「美鈴、そこを退きなさい」
「これ以上、まことを傷つけたらあたしが許さないんだから!!」
美鈴の必死の声が聞こえる。体を張って俺を守ってくれてるんだ。
情けない話だが、俺は少し嬉しかった。
「退かないと言うのなら、無理矢理にでも退かせますよ。僕は今、最高に怒っているのですから」
「やれるものなら、やってみなさい!!」
大野宮の頬がピクッと痙攣する。
パシッ!
次の瞬間、大きな音が部屋に響く。
「きゃ!!」
次の瞬間、美鈴は床に頬を押さえながら倒れていた。
大野宮の奴、美鈴を叩きやがったぞ!! もう絶対許せねぇ!!
「お前みたいな奴に…お前みたいな奴なんかに美鈴を渡すものかっ!!」
「ぐわあわ!!」
俺は拳を握りしめ大野宮の左頬を思いっきりぶん殴った。
「美鈴はな、美鈴はなっ! お前みたいな人間にばかりを周りに持ったせいで、すっと苦しんで来たんだ!! もうこれ以上、美鈴を傷つけるなっ!」
「き、き、貴様、僕を殴ったな!! この僕を…覚えてろ! 美鈴の父親やパパに言いつけてお前に復讐しててやるからな! そう、お前には義兄がいるだろう。奴も経済活動出来ないようにしてやる! 覚えてろ!!」
わめきちらす大野宮。俺は奴の襟首をつかむと睨み付けて言った。
「言いたいことはそれだけか!!」
俺の力一杯放った右ストレートが見事に決まって、大野宮は床にノックダウンした。
「貴様!!」
「つ、捕まえろ!!」
事の成り行きに、あっけにとられていた舎弟たちが我に返って俺に襲いかかろうとした。
「逃げるぞ、美鈴」
「…う、うん」
俺は美鈴の手を取って別荘を飛び出した。
振り向くとしっかりおれの手を握った美鈴がもう一方の手で涙を拭きながら必死に俺についてきている。