やっぱり俺は美鈴を放っておけない。これ以上、彼女が傷つくのを見てられない。
たとえ危険と分かっていても、俺が出来る所まではやってあげたい。
覚悟を決めると俺は綾部家の別荘を目指して走り出した。
気付けば、少し薄暗い空はどんよりと雨雲を漂わせていた。夕立が来そうだ。
夜が近いせいもあるだろう。辺りは少し暗くなっている。俺は美鈴の別荘まで行くと、その門をくぐろうとした。
「!!!」
「あっ」
突然、飛び出してきた美鈴に俺は驚いた。
しかし、一瞬視線が合うものの、美鈴は俺を無視して駆け出して行く。
「おい、美鈴!」
追いかけようとして、俺は振り返った瞬間、俺は今の美鈴の姿が妙だったことに気付いた。
一瞬しか見ていないが、いつもピッシリ服をきこなしている美鈴の服装がかなり乱れていたのだ。シャツもしわだらけだったしボタンも取れかけていたような…髪も乱れてたし、目に涙も浮かんでいたような気がする。
「あの腐れ野郎!! まさか美鈴を!!」
俺は、かまわず別荘の玄関を開けて中に侵入した。体が怒りで熱くなっていくのがわかる。俺は部屋を一つ一つ調べて回った。
その一つに電気がついてる部屋を見つけて中へ押し入った。
「大野宮!!」
中央のソファーに野宮が座っている。その隣にはガラの悪そうな感じの2人の男。たぶんヤツの舎弟といった所だろう。
いきなり部屋に入ってきた俺に驚いた顔をしたが、すぐに嫌みな笑顔に変わった。
「おや、これは、これは。いつかのクラスメイト君ではないか。勝手に人の家に上がり込むなんて不法侵入って言葉を知らないな君は」
見下したような口調で言う大野宮。
「うるさい! この変態野郎!! 貴様、美鈴に何をした!!」
「これは心外な。美鈴は恥ずかしがって逃げただけですよ。まったく可愛いものです。僕のような美男子に言い寄られて舞い上がったのでしょう」
「ふざけんな!!」
「おっと!」
大野宮に殴りかかろうとした瞬間、俺はヤツの舎弟たちに押さえ込まれていた。
「あきれたものだ。愚か者とは君みたいな人間を指していうのだろうな。もしかして、君は美鈴が好きなのかね。だいたい凡人君の君が美鈴と釣り合うわけがなかろう。ああいうレベルの高い女は僕見たいな人間が所有すべきだろ?」
「所有だと! 美鈴は物じゃないんだぞ!!」
俺は奴に怒鳴りかかるが、奴はいたって冷静だ。相変わらず横柄な態度で俺を見下している。
「はははは! かわいらしい事を言うね君は。所詮、彼女は成り上がり者の娘さ。僕のような由緒ある家の者が望めば喜んで僕の元へ来るだろうね」
「美鈴は、そんな事なんて、望んではいない!」
「ま、本人の好き嫌いはこの際関係ないさ。彼女は僕が望めば逆らえない。いくら凡人君が彼女に執着しようとも、僕には勝てやしないんだよ。お解りかな?」
「地位を利用して女をたぶらかすなんて男として最低だ」
「なんとでも言うがいい。所詮、負け犬の遠吠えだがな。くやしかったらお前も俺と同じ地位をてにいれてみたらどうだ?」
「エバるな! 自分で手に入れた力でもないくせに!!」
ぴくっと大野宮の眉毛が跳ね上がる。どうやら奴の逆鱗にふれたらしい。
「なんだとっ! …どうやら、この凡人君に僕の力を思い知らさなければならないようですね」
「ぐふ!!」
痛みと同時に体が折れ曲がる。
俺は大野宮から腹に蹴りを入れられた。激痛が走り冷や汗が出る。
「お前達! ちゃんと押さえてるんだぞ」
黙って頷く舎弟たち。俺の肩を握る手に力が入る。
「ぐわっ!!」
俺は思いっきり右頬を殴られた。口の中を切ったせいか血の味が広がる。
「思い知ったか! この身の程知らず!!」
「この程度かよ…ぺっ」
俺は大野宮の顔に思いっきり血の混じった唾を掛けてやった。
奴はその唾をゆっくり拭って怒りに震えてた。
ざまあみろ。俺は少しだけ気が晴れた。
「…僕を侮辱しましたね…」
静かにそう言うと、大野宮は拳を振り上げて、何度も俺の顔を殴った。
「貴様の…ような…凡人が、この僕を…侮辱するとは…許されない!!」
言葉の合間に拳をたたきつける大野宮。
ちくしょう!! 意識がなくなってきやがったっ!
俺は両脇から舎弟に押さえつけられてるので、避けることも反撃することもできない。