俺と美鈴は適当な所にパラソルを立てて、身体を焼いた。
照りつける真夏の太陽に汗が光る。
でも、よく考えると、なりゆきとはいえ、あの美鈴と二人で海でデートなんて、夏休み前までは想像もつかなかったよなぁ。
隣でうつぶせになって肌を焼く美鈴を改めて見た。
日焼けさせるのがもったいないくらいの白い肌。
金色の髪は太陽にキラキラと輝いている。
整った鼻筋。小柄でほっそりとしている割には付くところには付いている体の線。
そして深い海の青にも似たブルーの瞳。
腐れ縁という惰性でつき合っていた彼女だが、こう意識して見るとすごく魅力的だったんだなぁ。
なんて、思わず見とれていると、不意に美鈴が俺の方を向いた。
慌てて視線を逸らす俺。
「宇佐美ぃ〜のどか湧いた。ジュースぅ〜」
これだ…。
心の中で少しコケながらもクーラーボックスを覗く。
「何本飲むつもりだ? もうないよ」
暑くて喉が乾くせいか、さっきから美鈴はジュースを飲みまくっている。
中にはもう氷しか入ってなかった。
「なぁんでたくさん買っておかないのよぉ」
「美鈴が急に海に行こうなんて言うからいけないんだろ。これでも姉貴に頭をさげてもらってきてたんだからな」
「ジュースが飲みたいのぉ!」
「はぁ。分かったよ、ったく。買ってくればいいんだろ、買ってくれば」
まったくわがままなんだから。
美人かもしれないが、こんな性格じゃぁね…。
仕方がない。とりあえずビジターセンターに行って、自販で買ってくるか。
……
さてと。ジュースは買ったし、美鈴の所へ戻るか。
でも、使いっ走りさせられて、このまま帰るのもシャクだよなぁ。
よし、物陰に隠れて様子を見てみよう。
俺は少し離れた場所から海に背を向けた形でベンチに座った。
美鈴は俺が戻ってこなくてどんな反応をするのか?
お、そろそろあたりをキョロキョロし始めたぞ。
慣れないところに一人でいるせいだろうか?不安そうな顔をしている。
なんだ、カワイイ所あるじゃん。
あれ!? 男達が数人、美鈴の前に寄ってきたぞ!?
「ハァイ、ハウドゥドゥ!」
「失礼ね。日本語、話せるわよ」
美鈴が不機嫌そうにそう言うと、男達は一瞬怪訝な顔をして顔を見合わせる。
まあ、金髪で青い目の人がいれば、外国人だと思ってしまうのが普通だよな。
「ねぇ彼女、一人? な、わけないよね? 友達は君を置いて泳ぎににでも行ってるの?」
「なんなのよ、あんたたち」
あからさまに警戒心を見せる美鈴。
ほぉ〜。物好きなヤツもいるものだ。確かに美鈴は美人だけど、やっぱりあの容貌と雰囲気から声をかけようなんて度胸のある野郎はいないって思っていたのに。
正直、俺がナンパする立場だったら、美鈴には声をかけないだろうな。普通の女の子に声かけるのの何倍も勇気がいると思うぞ。
「女の子だけって事ならさぁ、俺達も混ぜてくれよ。な?」
「おあいにく様、私、彼氏と来てますから」
そっぽ向いて答える美鈴。
ところで、彼氏って…俺の事?
「でも、君、さっきからずっと一人だったじゃん。こんな綺麗な彼女をほったらかしてるような男より、俺達と遊んだ方が楽しいって」
「し、しつこいわね。まことは私の事をほったらかしにしてるわけじゃないわよ」
おい…いま俺のこと”まこと”って名前で言ったか?
「でも、さっきからひとりだったじゃん。僕がそのまことって奴なら、君みたいな美人をほんのひと時でも放ったらかしにしないけどな。いない間に横取りされるんじゃないかと不安になるよ普通」
「そいつ、君の魅力を全然理解していないんじゃないのかい?」
「ふざけないでよ。まこと以上に私を解ってくれる人間はいないのよ! なにも知らないくせに勝手なこと言うんじゃないわ!」
美鈴…。
まぁ、ここは何も聞かなかった事にして出ていこう。こんな事を盗み聞きなんてすべきじゃない。それにそろそろ出ていかないとこのまんまだと美鈴が可哀想だからな。
「美鈴! ごめん、ごめん。売店、混んでたから」
「あっ、なにやってたのよ馬鹿!」
美鈴が怒鳴る。
でも言ってる事とは裏腹に、ホッとした表情をして俺を見た。
「ちっ、本当に男付きかよ…」
「行こうぜ」
残念そうにこちらを見ながら男達は去って行った。
「なんだ、あいつら? 美鈴、ナンパでもされてたのか?」
「あんたって本当に鈍感! 私がどんなに不安だったか解ってる? ずっとほったらかしにして!」
げ! 美鈴、本当に怒ってるみたいだぞ。
「私なんか置いて帰ったって思ったじゃない。変な奴らは声かけてくるし…」
「美鈴、泣いてるのか?」
「そ、そんな訳ないでしょ! 馬鹿ぁ…もういい!! 私、泳いでくる!」
美鈴、目に涙溜めてた。
う〜ん、ちょっと悪いことをしたかなぁ…って、あ!
「美鈴、ジュースはどうするんだジュースは!!」