「あ〜、なんかさ、聞こえる波音が綺麗だよね」
「…そうね。あんたもたまには、気が利いたこというらない。私もそう思うの」
少し嬉しそうに美鈴は微笑むと、目を閉じて耳を澄ましているようだ。
なんだかこんな穏やかな顔をした彼女を初めて見たような気がする。
「辺りが静かだからよく聞こえるね」
虫の音と波音以外なにも聞こえない。
今の美鈴はやけに素直だな。酔っているからかもしれないけど、なんかやたらと可愛く見えるぞ。
「私、夏に別荘で眠るときは、ずっとこの波の音を子守歌にして眠ったのよ。なんらか、誰かがそばにいるみたいな不思議な気持ちになって安心できるのよね」
「波の音を聞きながら眠るか。なんかいいかもな。それって」
「私、好きな人とこうやって波の音を聞きながら寄り添えたらなぁって思っていた…」
「え?」
美鈴がゆっくりと俺の肩に寄り添って来た。
そのまま目をつぶって、波の音に聞き入っているようだ。
ちょこんと俺の肩の上におでこをつける。淡い香水の匂いが心地いい。
「美鈴…」
「……」
「……」
黙って美鈴の顔を窺ってみる。
「……スー……スー……」
おい!寝ちゃってるよ美鈴の奴。
なんだ意識して寄りかかってきたわけじゃないのか。
それにしても、どうしちゃったんだろう? 俺、美鈴相手にすごくドキドキしている。
すごく愛おしさを感じる。
認めたくはないけど、やっぱりコイツに惹かれ始めているのかもな。