「意外とドレスがよく似合ってると思って」
「意外は余計よ!」
「せっかく褒めてあげたのに」
「仕方がない。バカ宇佐美がめずらしく殊勝なこと言うから、素直に喜んでやるわよ」
「それは、それは至極光栄」
「…馬鹿…」
「美鈴よう。これほどドレスが似合う女は珍しいんだぞ。せっかく元がいいのに、どうしてそんなに性格悪なんだよ。美鈴がしおらしくしておけば、友達も増えるだろうし、彼氏だってすぐに出来るのに」
「私だって自分が性格悪なのはわかってるわよ。あんたはバカだから分からないでしょうけど、素顔の自分を分かってくれる人なんていないのよ。みんな私の容姿やお金を目当てによってくる人間ばっかり。そんな奴らに愛想良くするのは絶対嫌なの」
いつになく強い口調で言う美鈴だったが、その言葉の裏に行き場のない悲しみが感じられた。
「俺は美鈴の言うように馬鹿だけど、そのドレス姿を見て素直に綺麗だと思ったし、もったいないなって思ったんだ。掛け値なしにね」
「解ってるわよ。あんたが私におべんちゃらを言うほど器用な人間じゃないことくらい知ってるから」
美鈴は言い方とは裏腹に少し微笑んで俺を見上げる。
やっぱり美鈴も女なんだな。綺麗と言われてまんざらでもないらしい。無表情なふりをしようとしているが、顔がほころんでるよ。
「美鈴お嬢様。そろそろ中に入りませんとお父様がお探しになってましたわよ」
「え? わかったわ。じゃあ、そういうことで、じゃあね宇佐美君」
「ああ」
俺は軽く手をあげて答えると美鈴は室内へ入っていった。
って、美鈴の奴、今”君”付けで俺を呼んだよな?いつもは呼び捨てかバカという文字が付くのに…。どういう風の吹き回しだ?
俺は一人でいても仕方がないので、美鈴に続いて室内に入った。