■美鈴編■
2日目【7月22日】


 
 
 俺達は一目散に走って駅前通りに出た。
 よし、ここまで来れば人通りも多いし、大丈夫だろう。

「い、痛い! 痛いじゃない。ちょっと、いい加減に手を離してよ…」
「あ、ごめん」

 慌ててつないだままだった手を離して俺は美鈴の隣を歩く。

「まったく余計な事しちゃって…お礼なんて言わないからね。私一人でもなんとかなったんだから」
「なんだよ、っかく助けてやったのに。いくらなんでも、あれはヤバかったぞ。俺が助けに出なかったら逃げられなかっただろ?」
「自惚れないでよ! なによさっきのは! スカートめくりなんて今時、小学生でもやらないわよ! ああ恥ずかしい」
「あのなぁ! そのおかげで逃げれたのだろう?」
「けどねぇ…あっ、ちょっと隠れてっ」

 美鈴は俺を引っ張って自動販売機の陰に隠れる。
 なんだ?

「奴らか? 美鈴」
「違うわよ…いいから、ちょっと黙ってて」

 美鈴は有無を言わせない口調で俺に言うと販売機の陰から道の先の様子を窺う。ちょっと離れた所に二人の女の子がシュースを飲みながらしゃべっていた。向こうからは死角だ。でも距離は近いので話の内容がよく聞こえる。

「あ、あいつらは…」

 美鈴の取り巻き連中じゃないか。さっきあの場にいなかったから気にはなっていたけど、やっぱまだこの街にいたのか。

「麻紀子、いいの? ヤバいんじゃない? 美鈴の奴、今頃…」
「自業自得よ。金持ってることをいいことに、あの偉そうな態度。いま思い出しても腹が立つ! いい気味だわ。だいたいあの静香さんに対して偉そうに命令出来ること自体がムカツクのよ。それくらいやられて当然よ。せいぜい今まで払ったツケを返す事ね」

「そういえばそうね。確かに、あの馬鹿、ちょっとおだてれば調子にのって、言いたい放題だったもんね。私たちもずいぶん振り回されたんだから、酷い目にあって当然よね」

「ま、ああいった人間は、利用されるだけ利用すればいいのよ。どうせ向こうも私たちのこと小間使いみたいに思ってるんだから、こっちもこっちでいいように利用してやればいいの」

「それに、考えてみれば痛い目に遭うのも本人の為よね。私たちも静香さんに言われたから下手にでてたんだから、身の程を知ればいいんだわ」

 そういって馬鹿笑いする二人。

「あいつら…」

 俺は思わず出て行きそうになったが、美鈴に止められる。

「待って!いいのよ別に」
「いいのよって美鈴…お前、そんなに泣きそうな顔して」
「うるさいわね! こんな事、もう慣れっこなのよ!」

 自虐的に言う美鈴。
 慣れっこって…こんな事に慣れてしまえる訳ないだろ。

「美鈴…」
「なによ! そんな目で見ないでよ! あんたに同情されるなんて最低!! じゃあね! 馬鹿男」
「お、おい美鈴!!」

 あ〜あ、行っちゃった。
 まあ、俺にだってなんとなく解っていたさ。美鈴のようなお嬢様が質の悪い不良グループを引き連れる事が出来たのか。
 でも美鈴はショックだったろうな。信頼していた静香に裏切られ、チヤホヤしていた麻紀子達にもこんなふうに思われていた事を知って…。
 あいつ大丈夫なのだろうか?