■美鈴編■
2日目【7月22日】


 
 
「なんで俺、こんなところでこんな格好をして突っ立っているんだ?」

 ふと我に返れば、俺は美鈴の別荘のプールサイドにボーイの格好をして立っていた。

「うるさいわね。ちゃんとバイト代は出すわよ。仕事をきちんとこなしなさい」

 水着姿の美鈴が隣でそう言う。プールサイドには彼女のほかにも、静香や麻紀子たちがいる。どうやら俺はコイツらの給仕として雇われたらしい。

「俺、引き受けるなんて一言も言ってないんだけど…」
「あんたに決定権はないの」
「あのなぁ…」
「いまさらグチグチ言わない。男らしく無いわね。だいたいイヤだったら最初からついてこなければよかったじゃない」
「おめーが無理矢理連れてきたんじゃないかっ」
「あんたなら無理矢理ついて来ない事だって出来たはずよ」

「ったく、このわがまま女! だいたい、なんなんだよ、このプールって」
「プールはプールよ。綾部家の別荘なんだからそれくらいついていて当然じゃない」
「わざわざプールなんて作らなくても海がすぐそこだろうが。無意味なもの作らなくてもいいじゃないか」
「馬鹿ね。そこが貧乏人の考えなのよ。あえてプールを設置するこだわり。このあたりはあんたみたいな単細胞には理解不能でしょうね」
「理解したくもないさ。こんな成金趣味」

「はいはい、勝手に言ってなさい。…そろそろ深川の料理が出来る頃だわ。馬鹿男、早速仕事よ。台所行って持ってきなさい」
「…ったく何で俺が」

 文句をいいながらも別荘の中に入っていく俺。

「優紀さん、料理取りに来ました」
「ゴメンね、まこと君。お嬢様のわがままでこんな事をさせちゃって」
「いえ。俺はあいつに振り回されるの慣れてますから。それにしても、優紀さんって料理、上手いんですね」

 キッチンに所狭しと並べられた、旨そうな料理を見て俺は言う。

「うちのお嬢様は、味にもうるさいから、おかげで鍛えられてるわ」

 苦笑しながらそう答える優紀さん。

「ははは。ホント、優紀さんもあいつの子守、大変ですね」
「まあ、これが仕事だからね。いつも今日みたいに目の届く所にいてくれると助かるんだけど」
「ご苦労お察しします」
「ありがと。でも、まこと君、せっかく海に遊びにきているのに、こんなことさせられて、本当に迷惑じゃない? 都合があるんだったら、私がお嬢様に言ってあげるけど」

「いいんですよ。おかげで堂々と目の保養が出来ますしね」
「ああ、なるほど」
「…って、そこで納得しないで欲しいなぁ。冗談ですよ。とにかく、心配しないでください。本当にイヤだったら来てませんって。それに優紀さんが悪く思う事ないですよ。俺は美鈴のわがままで連れて来られたんですからね」

「わかったわ。それじゃ、悪いけど出来合った料理、順に持って行ってくれる? わたしも手が空いたら手伝うから」
「お易い御用です」

 俺はトレイを持って優紀さんの料理をプールサイドまで運んだ。
 はぁ、なんだかんだ言って、俺、美鈴の指示に真面目に従っているよな。
 こんなんでいいんだろうか? はぁ。