「馬鹿言うな、俺は忙しいんだ」
「ナンパにでしょ? そんなの時間の無駄じゃない。あんたの誘いに乗るような馬鹿いないわよ」
「ほっとけ。なんでこんな所に来てまで、お嬢様のわがままにつき合わされないといけないんだよ」
「うるさいわね。黙ってついてくればいいの」
「だからイヤだって言ってるだろ?」
「あんたにとっても悪くない話だから、素直について来なさいよ」
「じゃあ、どこに連れていくのか言ってみろよ」
「あたしの別荘」
「そこで何しようって言うんだよ」
「何だっていいでしょ? 男のくせにごちゃごちゃ言っているんじゃないわよ。行くわよ」
「俺は行かないからな」
「いいから行くの!」
「行かない」
「行くの!!」
「行かないったら行かない」
「行くったら行くの!!」
…って、なにやってんだよ俺は。ガキの喧嘩じゃあるまいし…。
なんかナンパする気失せちまった。
まぁいいか。日程はまだまだあるんだし、今日はコイツのわがままにつき合っても。
「ったくわかったよ。ついていけばいいんだろ、ついていけば」
「最初から素直にそう言えばいいのよ。まったく世話焼かせるんだから」
「…どっちがだよ…」
「何か言った!? いいから行くわよ」
そう言って駐車場まで連れてこられる。そこには優紀さんがベンツの運転席に待機していた。
「深川! 帰るわよ」
「はい。…あの、お嬢様?」
優紀さんは俺の方を見て眉をひそめる。
「コイツの事はいいんだって」
ぜんぜんよくないぞ。
そう言おうとした俺を美鈴はベンツの後部座席に押し込めた。そうして俺は美鈴に拉致されてしまったのだった。
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