そして再び沈黙。
なにか言うべきかな? と美鈴を横目で見る俺。
美鈴が不意にため息をついて俺の近くに寄ってきた。
ん?コイツ何をするつもりだ?
「宇佐美…」
いきなり俺の手を両手で握る美鈴。なんだぁ? 目を潤まして俺の顔を見上げてるぞ。
急に俺は美鈴と見つめ合う形になる。
ちょっと、美鈴を相手に俺はなにドキドキしてるんだ。
「私ね、去年の夏休みお父様に言われてアメリカに1ヶ月くらい行ってたの」
「な、なんだよ、突然…」
「そこでね、護身術とか、サバイバル知識とかを習って来たの」
そう言いながらゆっくり俺の手を掴む美鈴。俺が戸惑ってる間に掴んだ俺の両手を横にあった柱の所まで持っていく。ちょうど柱を抱いたような格好になった。
「親指を出して」
「こうか?」
訝しく思いながらも、思わず美鈴の言うことに従う俺。
言われたとおり両手の親指を突き出すと、美鈴はなにやら取り出して、両親指を結んだ。コードなどを束ねるバンドだ。
「アメリカでね警察官が手錠がわりにこれを使う事があるのよ…クスクス、やっぱり馬鹿ね、宇佐美って」
「え? …おい、ちょっと、はずれないぞこれ」
ひっぱて引きちぎろうとしたが、ぜんぜんちぎれない。それどころか親指が締め付けられて痛い。
「あ、バスが来た。宇佐美、風邪ひかないようにね。楽しかったわ。バイバイ」
立ち上がって、そのまま行こうとする美鈴。
「ま、待てよ、おい! 外して行け! おおい!」
美鈴は素早くバスに駆け乗った。意地悪く笑いながら手を振っている彼女を俺は呆然と見送った。
……。
……。
……ああ、どうしよう? 朝までこのままかよぉぉぉ!!
「ちょっと君? なにしてんのこんな所で」
たまたま駅の方からバス停に入って来たショートカットの活発そうな女の子に声をかけられる。当然だが怪訝そうな顔で俺の顔をのぞき込んでいた。
「あああ! 助かった。ハサミとか持ってない?」
俺は顎で親指のバンドを示して彼女に事情を訴える。
「ナイフなら持ってるけど…」
その女性はキャンプ用小型ナイフを取り出すとバンドを切ってくれた。
「最近は変な遊びがはやってるのねぇ」
「んな訳…」
「あっバスが来た。君、趣味は人それぞれだけど、人に迷惑をかけるような遊びはやめた方がいいわよ。それじゃぁ」
あきれたような顔でバスに乗り込む彼女。
「だぁぁー、誰が好きこのんでこんな事するかぁ!」
俺がまだ少し痛む両親指を交互にさすりながら、ドアが閉まったバスに向かって突っ込みをいれた。
…あああ! そういえば今のが最終だったんだ!
もう歩いて帰るしかないじゃないか…とほほ。
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