◆7月21日<夜>◆
『駅前商店街にて』
姉貴の家で夕食を済ませた後、暇を持て余した俺は駅前に暇つぶしに出かける事にした。弘達への土産なども見たいし、なによりせっかく来たのだからいろいろ探索してみようと思ったのだ。
歩いて行くとけっこうな距離なので、俺はバスに乗り、駅前に向かう。
駅前には道沿いに商店が建ち並び、田舎の割には活気にあふれていた。とりあえず少し大きめのゲーセンを見つけると俺はそこで遊ぶ。昔、ハマったゲームが置いてあって、なつかしさのあまり熱中していたら、けっこう時間が経ってしまっていた。
さて、そろそろ…と店を出ようとした時、ロビーに美鈴と静香、そして取り巻き2人の姿を見つけた。
「ねえ、頼みますよ美鈴様〜、5万でいいからさ」
取り巻きのひとり、麻紀子が美鈴に甘えた声を出す。
「またなの? ここのところ毎日じゃない」
「貸してくれないなら別にかまわないわよ。そのときは私たちはあんたとバイバイするだけだから」
静香が冷たくそういうと、美鈴は声を詰まらせる。
「…返すつもりないくせに…」
「どうなの? 出すの? 出さないの!?」
「わ、わかったわよ」
しぶしぶ財布から万札数枚を出す美鈴。
「悪いわね、美鈴」
それを悪ぶれた様子もなく当然のように受け取る静香。
ったく、予想していたとはいえ、いいように金づるとして使われているんじゃないかよ、美鈴の奴。
「それじゃ、明日ね」
「恩に切るわね、美鈴様」
そう言い残して静香たちは立ち去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! たまにはわたしも連れて行きなさいっ」
「…あのね、お嬢様。あたしはあんたの事、思って連れて行かないのよ」
「どういう事よ」
「あたしたちが今から行く所は、あんたみたいなお嬢様が行く所じゃないの。あたしたちがつきあっている奴らはね、一癖も二癖もある連中でね、あんんたのようなお嬢ちゃんには、とても会わせられる連中じゃないの」
「あ、あたしを馬鹿にしてるのっ」
「ったく、あんたも知ってるでしょ? あたしたちがどういう連中とつるんでいるかっていう事。連れていってやってもいいけど、身の安全は保障しないわよ」
「…わ、わかったわよ」
やはり噂は本当だったんだ。静香の奴、チンビラまがいの連中とつきあっているって話。
成績優秀で、学校では優等生を装っているけど、裏ではかなりヤバイ事をやっているというのは、生徒の間では公然の秘密というヤツだったりする。
少なくとも女子の間では静香に逆らえる生徒はまずいない。
ある意味、一番質の悪いタイプの不良かもしれない。
まぁ、俺には関係のない事だけどさ。
俺は美鈴の事が少し気になりつつも、そのまま店を出た。
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