キキキッ!!!
突然響いたタイアのこすれる音に、振り向くと、車が視界に飛び込んできた。俺はあわてて歩道に倒れ込むように退避する。
俺はすねをアスファルトに思いっきりぶつけて、痛みが脳天を駆け抜けた。
あまりの痛さにしばらく動けないでいると、突っ込んできた車の運転手が降りて来る気配がした。
「ちょ、ちょっと大丈夫!? どこか怪我したの?」
焦った女性の声がする。
「足、怪我したのね、ちょっと見せてみて」
その女性は俺の隣にかがみこみ俺の様子を伺う。
「い、いえ、大丈夫ですから、ちょっと打っただけですから。出血もないし…」
「でも、ぶつかったんでしょ、骨に異常があるかもしれないわ。病院行く?」
「あ、車には当たってません。避けようとして転んだだけですから」
「そうなの?よ かった。転んだだけなら、大事ないわね。立てる?」
その女の人は胸をなで下ろして俺に手を差し出した。
「あ、はい、なんとか」
「注意してなかった私も悪いけど、君だって悪いんだからね。ふらふら車道に出てくる…って、あら? もしかしてまこと君?」
急に自分の名前を言われて、驚き、相手の顔を見た。
「え? …あれ、確か、あなたは美鈴の付き人の…」
「深川優紀よ。なんだ君だったの。めずらしい所で会うわね」
「ちょっとこの街にある姉の家に泊まりに来ているもので…」
「ふ〜ん、姉さんの家に…ねぇ」
「??」
意味ありげなトーンでそういう優紀さんを少しし怪訝に思いながらも、話を続ける。
「ところでまこと君、うちのお嬢様、見なかった?」
「あ、会いましたよ、あいつの別荘の庭で」
「本当?なんだ、帰っていたのね。ありがとう。あのお嬢様は、ちょっと目を離すと、すぐいなくなるんだから。旦那様に怒られるこっちの身にもなって欲しいわよ…って、ごめんね、まこと君に愚痴っちってもしょうがないわね」
「いいえ。お気持ちはよ〜く解りますから」
「ふふふ、まこと君も手を焼いているの? お互い大変ね…じゃあ、わたしは行くから。教えてくれてありがとう。それと、ごめんね、牽きそうになっちゃって」
そういうと彼女はベンツの運転席に戻っていった。
それにしても、綺麗な人だよなぁ。姉貴に負けず劣らずといった感じだ。優紀さんの場合、いつもスーツ姿なせいか、家政婦と言うより社長秘書ってイメージだよな。まぁ、うちの学校でも密かにファンクラブみたいなものを作っている連中もいるらしいし…。俺も本当はちょっとドキドキした。
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