■真澄編■
6日目【7月26日】


 
 
「真澄ちゃん…好きだ…誰よりも君が好きなんだ」
「宇佐美先輩…」

 彼女の体温が濡れた服を通して伝わってくる。心臓の鼓動が聞こえる。熱い吐息が首筋にかかる。中学の以来、別々の人生を歩んでいた二人がこうして出会って今、お互いの鼓動を確かめ合っている。
 落ち着いたのか、真澄ちゃんは俺の胸からゆっくり顔を上げる。

「ご、ごめんなさい、先輩…服が…」

 彼女の濡れた服の水気が俺の服にも染み込んでいた。

「気にしないよ。それとも嫌?」

 首を横にふる真澄ちゃん。

「ずっとこのままでいたい…」

 顔を真っ赤にして小さくつぶやく彼女。

「宇佐美先輩…好きです。あたし、ずっと、ずっと前から先輩の事、好きでした…」

 見上げると月明かりが海面に写ってキラキラ輝く。彼女の髪から滴る水も光を反射している。月から落ちた光の雫のようだ。優しい光の渦の中、俺達は抱き合っていた。

「あの…」

 真澄ちゃんがふと口を開く。

「何?」
「…その…私…」

 口をパクパクしながら声にならない。何かを言おうとしている彼女。

「大丈夫。落ち着いて…。ちゃんと聞いてあげるから、話してみて」
「…あ、あたし、ありったけの勇気を出して言います…」

 彼女はそう言うと俯いてごにょごにょと何かを囁く。

「…し…下さい…」
「え?」

 俺はなかなか聞き取れない。彼女は決心したように俺を見上げてはっきり言った。

「キス、して下さい」

 俺は驚いて、彼女を見返す。瞳は涙で潤んでいた。しかしその目の奥には彼女の賢明な決心がかいま見える。

「あたし、宇佐美先輩となら…」

 俺は彼女の頬に手を当てる。彼女は見上げたままの姿勢で目をつぶって押し黙った。抱いた彼女の肩が震えていた。
 俺はゆっくり彼女の唇に唇を重ねる。
 彼女の頬を一筋の涙がこぼれ落ちた。