「ちょっと、大丈夫?」
「……」
真澄ちゃんは立ち上がろうともせずに、その場でじっとしてる。こちらの方を振り向いてもくれない。
「真澄ちゃん?」
彼女はゆっくりと体を起こすと、その場に座り込んでしまった。
もちろん向こうを向いたままで表情はどんな顔をしているのかわからない。俺はどうしていいかわからずしばらく彼女の背中を見ながら立ちすくんだ。
そしてゆっくりと彼女に話しかける。
「真澄ちゃん…さっきの事、驚いたよ」
彼女の体がビクッと動く。
しばしの沈黙。
そして彼女は絞り出すように小さな声で口を開いた。
「ごめんなさい。宇佐美先輩…。あたし、ちゃんと言うつもりでした…。先輩があたしなんて本気で相手にしてくれないって…わかってます。ただ、駄目でもいいからちゃんと自分の気持ち…伝えたかった。あたし、その事が悔しくて、恥ずかしくて…」
「真澄ちゃん…」
「…あは、駄目なんですよね、あたしって…。いつも逃げてばかりで…。先輩、追いかけてきてくれたのに、嬉しいはずなのに、逃げちゃうなんて…」
俺の方を振り向くと自虐的に笑って俯いてしまう真澄ちゃん。
「先輩が卒業して、もう一生会えないんだって諦めてました。先輩にこの海で出会えて、これって神様がくれた最後のチャンスなんだって…。だから自分から本当の気持ちを伝ようと、この一週間、ずっと思い続けていました…。でも、いざとなると、勇気が出なくって…言えなくて…」
「……」
俺は黙って、真澄ちゃんの手を取って立ち上がらせた。彼女の憂いに満ちた顔、濡れてる瞳、月明かりに輝く滴。俺は息を呑んだ。
その神秘的な美しさに俺は彼女に心を奪われた。
一瞬、二人は見つめ合った。長く感じられた一瞬。彼女はすぐに目を反らして口を開く。
「本当にごめんなさい…あたし、帰ります…」
俺に背を向けて岸の方へ去ろうとする彼女。
おい…彼女に見とれて惚けてる場合じゃないぞ!
「返事は聞いてくれないのか?」
「え?」
真澄ちゃんは立ち止まる。
「俺さ、真澄ちゃんの気持ちを聞いて、嬉しかったよ。あんな形になっちゃったけど、俺も今夜は自分の気持ちを伝えるつもりで君を追って公園に来たんだ」
真澄ちゃんの目に驚きの表情が浮かぶ。
「真澄ちゃんってさ、昔から何でも一生懸命だったろ。それは、断れなくて嫌々やった事もあるかもしれないけど、それでも、ちゃんと最後までやってたよね。そんな姿を見ていて、俺も何とか手助けしてあげたいと思ったんだ」
「宇佐美先輩…」
「放っておけないっていうかさ…俺の一人よがりかもしれないけど…。だから真澄ちゃんの事、気になる存在ではあったんだ。そして、一週間前、君と出会って、一緒に過ごして…俺、真澄ちゃんの事、どうしようもなく好きになってしまった」
真澄ちゃんは両手を口に当てると硬直してしまった。目からポロポロ涙がこぼれる。
俺は真澄ちゃんの側にゆっくり近づくと優しく抱きしめた。
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