◆7月25日<夜>◆
『長谷川家の食卓で』
う〜ん、やっぱりなんか気になる。
弘と真澄ちゃんが一緒にいた事。わざわざ一時間半かけてこの街にやって来るくらいだ。あいつ相当、気合い入ってるぞ。
だいたい、いつの間に、彼女がこっちの叔父さんの家にしばらくいるなんて情報を得たんだ?
う〜ん、こういう事にかけてはあいつは天才だからなぁ。
「おい、まこと。箸が止まってるぞ。とっとと食べなよ」
「わかってるよ」
俺は姉貴と康太郎さんの三人でちょっと遅い夕食を食べている。
「なんだ考え事か? はは〜ん、例の彼女?」
「おや、まこと君、この街で好きな娘でもできたのか?」
康太郎さんが興味深そうに話に参加してくる。
「ほら、展望レストランで会った娘いるだろう?昔の後輩って娘。それに手を出してるんだよ」
「おい、姉貴。そんな言い方ないだろ。人聞きの悪い」
姉貴を睨み付けるが全然動じた様子はない。まあ、いつもの事だケド…。
「事実だからしょうがない。それで、何を悩んでいるんだ?」
「関係ないだろ」
「はん! お前、さては振られたな」
半目をして俺を見る姉貴。俺は内面ギクッとしながらもとぼけてみせる。
「馬鹿言え。まだ彼女には何にも言ってないよ」
「ほう。じゃぁ強力なライバルが現れたとか?」
さらに目を細めて俺にいう姉貴。
「そ、そんなんじゃない。弘の奴なんかに…あっ!」
ああ! 俺また言わなくていいことを…。
慌てて口を押さえる俺。姉貴は勝ち誇ったように俺を見た。
「弘って、お前の友達の岸田弘か?」
「さ、さぁね」
俺は冷や汗をかきつつとぼけてみせる。