「そ、そりゃそうだけど…」
「じゃあ、問題ないだろう?」
「それにしてもだ。一緒に来た小野寺さんを一人、放っておいて他の女の子といちゃいちゃなんてあんまりじゃないのか?」
「はは〜ん。なんだ、お前、やっぱり美和に惚れてんのか?」
半目で俺を見る弘。俺は思わず焦ってしまう。
「な、なんでそうなるんだよ」
「そんなにムキになる所が怪しいぜ。いや、いいんだ、いいんだ。別に悪い事じゃねぇ。それに美和の方もまんざらでもないようだし」
「なによそれ! 誤魔化すならもっとましなやり方しなさい。相手をちゃかすなんて最低よ」
小野寺さんがきっぱりと言い返す。さすがに幼なじみ。弘の魂胆、暴いちゃってるもんな〜。俺もあやうく墓穴を掘るところだった。
「ほら、謝りなさい。迷惑かけちゃったんだよ、宇佐美君に」
「なんで、俺が…」
「宇佐美君が一緒にいてくれなかったら、私はあんたとは絶交するつもりだったのよ。いくら幼なじみだってやっていい事と悪いことがあるんですからね」
「ちぇ。わかったよ。まこと、悪かったな。じゃあ」
そう言うと、弘は黙って成り行きを見ていた真澄ちゃんの手を取って去ろうとした。
「あ・ん・た・は〜」
そう言いながら弘の耳を引っ張って連れ戻す小野寺さん。
「わかった! わかったから! 痛い、痛い!」
そのまま弘を連れていく小野寺さん。途中俺達の方を振り返る。
「ありがとう、宇佐美君。それとごめんね、え〜っと、真澄ちゃんだっけ?」
「……」
真澄ちゃんは黙ったままだ。俺は小野寺さんに軽く手を振ると真澄ちゃんの様子を伺った。
「あたし、海にいる間は彼女だったんじゃないのですか?」
「え?」
「だって先輩、出会った日の夜にそう言ってくれました」
「それは、そうだけど…」
「あたし、馬鹿ですね。一人で本気にしてしまって」
そう言って投げやりに笑う真澄ちゃん。
「俺の彼女だなんていったら真澄ちゃん、迷惑かなって思って」
「わたし迷惑と思ってる相手と一緒にはいません」
「でも、真澄ちゃん弘と…」
「違います! 誤解です! あたし岸田先輩の事なんてなんとも思ってません」
いつになく強い口調でいう真澄ちゃん。
「私、本当は…本当は…」
「本当は何だよ」
「…いえ、なんでもありません。あたし、帰ります。それじゃ」
俺を振り切るようにして走り去った真澄ちゃん。
くそっ!なんでこうなったんだよ。
俺は苛立ちを覚えながら一人帰る準備を始めた。